第9話 教育(せんせい)

文字数 5,057文字

晴れ渡る街の中央に巨大な刀剣のような牙に向き合うような2対の狼の頭骨があった。

マーニさんの説明だと、その狼は陽狼スコル、月狼ハティと呼ばれる遥か昔にいたモンスターの頭骨だった。
昔話で二匹の狼はこの地に災いをもたらす二つの星を食べようとした。
太陽を食べようとした狼スコルは体を焼かれ骨になり、月を食べようとしたハティは月から降り注がれる光の雨によって体を引き裂かれ骨となり、この地に落ちたが二つの星は狼たちに恐れて逃げたという話しだった。
大事をすれば必ず代償も伴うが彼らのように気高くあれという自己犠牲の教えなのだろうか。

でも、結局それで死んでしまったら何も残らないじゃないか。

だがそこも今では、草原都市ティルウィングの人々の待ち合わせ場所やその昔話もありこの街の観光スポットとなっていた。

その広場でモルガーナ先生が俺たち三人をイスに座らせて青空教室を開いていた。

先生は学校とかでよく見る何かをさすときに使う棒をクルクルと回してこちらに指して話しを始めた。
「という訳で私が先生になった以上、びしびしと鍛えます。
今回一緒に学ぶ仲間同士、最初は、自己紹介からお願いします。
はい、アスラ君から初めてください。」

「僕の名前はアスラです、吸血鬼の氷魔術士の15歳です、これでいいですか」
そうなんだアスラさんと同じ歳なんだ、それでもすごいな、同じ歳なのに魔獣もあんなに簡単に倒せるから。

「よろしい。
はい次いいですよ」

するとマーニさんは待っていましたとばかりにイスから立ち上がり言った。
「じゃあ、次は私だね。
改めまして私は、エルフのボーデアーブル・マーニで剣士をしており、歳は16歳です」

「えっ!!!」

「ヒャッ、いきなり大声ださないでよマコト」

「いや俺よりも年上なんですね」

「えぇっ、マコト同じ年齢じゃなかったの、ちなみに何歳なの?」

「15歳です」

「私よりひとつ下じゃないの」

「二人とも歳知らなかったんですか」

「まったく知らなかったです!!!」
アスラさんのツッコミにこう答えるしかなかった。
ここでたじろいだら、かなり恥ずかしいからな。

「うんうんいいことです、年齢を知ることは相手とのコミュニケーションも取りやすいでしょう」

「ちなみに先生は何歳ですか」

「ちょっアスラさん、失礼ですよ」

「そ、そ、そうなのか、別に深い意味では聞いたわけじゃないが」

「そうよね、生徒の年齢は知ってて、先生が言わないのはおかしいよね。
はい、現在25歳でーす☆」

そうなんだ25歳なんだ。
先生もテンション上がっていてウキウキしながら言った。
横を見るとマーニさんは少し苦笑いしていた。

すると、やれやれと呆れた顔になりながら、お茶を持ってきたマスターがいた。
「まったく、バレる嘘をつくなモルガーナ。
本当は3……」

ボゴッ

マスターが数字を口にした瞬間、思いっきり後頭部を拳で殴られてその場で倒れていた。
拳の威力が強かったのか、スライムであるマスターの頭が溶けて液体状になっていてテレビで見る殺人事件のようになっていた。
ヒェッ、怖っ。

「三人とも、あんまり時間を疎かにすると本当に結婚などの幸せを逃して後悔することがあるから、できることは早くしたほうがいいからね」

「……はい、分かりました」

苦笑いしながら聞いていたけど、なんだろう説得力はある。

「今なぜか気絶しているギルドマスターが持っている書類を目にしていました結果。
先生が皆さんに合わせた修行をつけます。
えーと、マコト君は槍使いでマーニちゃんは剣士でアスラ君は氷魔術士でよかったでしょうか」

「ハイッ!!!」

「では早速、勉強会にレッツゴー」

スタスタッ

街を抜けて、人気のない草原を歩いていると先生が何かを思い出したのか、クルリとこちらに向いてきて、腰に掛けていた刀剣を手に持った。
「あぁ、そうだマーニちゃん。
さっきいきなり気絶したマスターから応援の品です」

そう言うと、鞘のない刀身が黒く太陽に照らすと蒼光る刀剣を渡していた。

「これは、この街の名前の由来にもなった魔剣ティルウィング。
これは、この街一番の戦士が代々継がれる刀剣、私がこんなものをもらってもいいんですか」

「いいのよ、マスター曰く、あぁそうだな、マーニはこれからも剣の腕を磨けば、魔王軍幹部の剣士モードレッドにも肩を並べることができる。
だから、その刀剣はその勇者になるための一歩だ。
って言っていましたからね」
先生はマスターの落ち着いているが怖そうな表情をマネしながら話した。

「マスター。
先生、ありがとうございます」

良かったね、マーニさん。

「でも、知っていると思うけどその魔剣ティルウィングは、持ち主の望みを三度叶えるけど、三度叶えると持ち主の命を奪う剣。
使い方には気を付けてね」

「先生なんで、そんな危険な剣をマスターはマーニさんに渡したんですか」
すると、先生は腕を組みながら誇るように言った。

「秘密主義な人だけど、マーニちゃんに一人前の剣士になって欲しいからじゃないかな。
望みなんかにすがらなくても魔剣ティルウィングを使える剣士に成長して欲しいからだと思う」

「確かに三度の望みさえ関わらなければ、刀剣としては一流だ。
魔獣の特有の魔力、星海の呪いによって複雑に固められた鱗や皮に対しても全く刃こぼれしないからね」

「アスラくん、なかなかの物知りね」

「昔、自分に魔術を教えてくれた一人の魔術師から聞いたことがありましたので」

「そうなのね、是非ともその魔術師とも会ってみたいわね」
そう言うと、アスラさんは少し寂しげな顔になった、なぜだろう。
きっと過去に何かあったのだろうか。

ちょっと話しを変えよう、あまりアスラさんに悲しい顔なんてさせたくないからね。

「思ったんだけど、アスラさんのその杖もなんか魔剣ティルウィングみたいに特別なものなんですか」

そう言うと彼は純白の杖を取り出した、杖の先端の黒石はじんわりと金色に光り輝いていた。

「そうだね、月杖アルテ。
昔、大切な人が強力な魔力を合わせてケートスの牙と世界樹の葉とバビロンの聖石で作ってくれたものだよ。
どんな魔術を使っても壊れなくていつも僕を助けてくれた大切なものさ」

「そうなんだ、きっとアスラさんに対する思いの強さがその杖の強さなのかもね」
そう言うと、彼は嬉しかったのかフフッと微笑んでいた。

「ーーありがとう、マコト」

それを横に見ていたマーニさんは嫌な予感がする。
あのニヤニヤしている顔は、悪巧みしている顔だ。
「アスラもしかして昔の恋人とかじゃないよね」

マーニさんいじっても、アスラさんはいつも通りに、あっ、そうですかってあしらわれるのに懲りないんだね。

「う、う、うるさい」
するとアスラさん、何か取り乱したのか、顔を真っ赤にしている。
そうなんだ、そんなに大切な人だったんだね。

そんな話しをして二人は自主練で別れて、俺は先生について行った。
「マーニちゃんやアスラ君は、今持っている技に磨きをかけるために剣の素振りや魔力のため方などの基礎練習を行っているけど。
マコト君は独学で技を使っているから洗練さや、無駄な力の使い方が多いため、先生が基礎から教えます」

「魔術師のモルガーナさんはできるんですか?」

「まぁ見ていなさい、ちょうど先生が召喚させたアイアンゴーレムでこの魔槍の使い方を教えるから」
すると、彼女の指差した方向に自分の数倍もある長さと厚さがある鋼鉄の塊が動いていた。
あれがアイアンゴーレムなのか、いや普通に壊せるわけないよね。

しかし、先生は俺から借りた槍を片手で回しながらスタスタと軽い足取りで歩き、回していた槍を構えた。

「ハッ!!!」

彼女が言葉と共に構えた槍は真ん中からパックリと割れて、そこからは太陽よりも輝いた光線を放出させた。

バババッッ
ドロッ ポトポト

アイアンゴーレムの体はその光によって即座に溶け切り、残ったものは沸騰した金属の液体だけだった。

「すごい」
驚きのあまり、それしか言葉が出なかった。

「ではマコト君もやってみましょう」
モルガーナ先生は俺の肩にポンッと手を当ててニッコリとした笑顔で言った。

「えっ、いや俺にはできないですよ」

「この技の名前は無いからアナタが付けていいから。
とりあえずやってみなさい」

「わかりました、でも失敗しても笑わないでくださいよ」

「えぇ、生徒が必死に頑張っているのを笑ったりはしないわよ。
コツとしては体から魔力の流れを感じ、それを槍の先端に集中するようにすればいいのよ」

「では、行きます」
槍の先端に魔力を集めるようなイメージでやればいいんだよね。

「ハッ!!!」

ホワン

すると槍は開くこともなく、先端からシャボン玉のような光の球のようなものがフワフワ浮いたものが出てきただけだった。

「うんうん、技のやり方は綺麗だったわね。
でもやっぱり、無駄な動きも多いから基礎練習からね。
アナタは、朝から夕方までこの槍に魔力を溜めて、先生のように今よりも強く放出するように頑張っていただきます」

そして、俺は晴れの日も雨の日も風の日も修行も兼ねて鉱石運びのクエストをこなしながら何度も技の練習を繰り返した。
槍の使い方の練習も先生に教わり最初は、手のひらが血豆になり潰れても何度も繰り返した痛みはあるが血も出なくなり、だんだんと動きが良くなり自分でも上達しているのが分かってきた。
でもあの先生の技は出せなかった、やっぱり強力な分、発動するのも難しいんだろう。

カンッ

「ふぅ、ちょっと休憩」
そして、練習を始めてから何週間か経ったあと、休憩をとっていると遠くから二人の影が見えた。

「マコト!!!」

「どうしたんですか、アスラさん、マーニさん」

「お昼ごはんにしよう」

アスラさんにそう言われて、暖かな日差しを浴びながらシートを敷き、三人で昼ご飯を食べていた。

「おいしいですねこのサンドイッチ、作ったのはアスラさんですか」

「えぇ、そうだ。
よく分かりましたね」

「たまたまだよ」
と言いながら、俺は少しホッとした。
なぜかというと、以前マーニさんが作ったサンドイッチを食べたマスターが元のスライムの形に溶けてしまった事件があった。
原因は、サンドイッチの中に岩塩しか入っていなくて、彼女曰く、俺から聞いたおむすびをサンドイッチで再現しようとしたらしい。

「ところで私たちのチーム名どうする」

「チーム名決めないといけないですか」

「そうよ、だって個人名よりかはチームで呼ばれたときのほうが仲間っていう感じするし」

「そしたら、チーム草原都市?」
そう言うと、マーニさんは……

「バァァァッ、ダサブラスト安直ネーミングッッッ!!!」
大声で謎の言語を話した。

「えぇ、じゃあマーニさんは何かあるんですか」

「フフッ、既に準備してあります。
魔獣にいるところに我らあり、人々に迫る敵を倒す正義の新星!!!
魔王軍三勇者ッ!!!」

ビシッ

彼女は人差し指を天に向けて決めポーズを決めて高らかに宣言した。

「おぉっ……」
パチパチ

「ありがとう、ありがとう。
これにより、魔王軍三勇者のチームは結成しました」

「えぇ、もうチーム決定したんだ。
別にいいんですけど、名前の由来とかはあるんですか」

「私ね、いつか天章ムラマサのような勇者になりたいの」
彼女は顔からキラ星を出すように言った。

「天章ムラマサ、なんですか、それは」

すると、アスラさんが話し始めた。
「あぁ、この世界を救った勇者の昔話ですよ。
ここから極東にある各地の都市を襲い、この世界を侵略しようとした星海の獣にその勇者に賢者と英雄と呼ばれる三人で戦い、勝利して無事、この世界を守ることができたという物語さ」

「その物語の最後にして最強最悪の敵、ドミニオンと呼ばれる化け物にもなんとか苦戦しても最後には三人で力を合わせて勝ったというところがすごく良かったの。
だから、私たちもその三人みたいにこの世界から魔獣やリンネを倒せるように魔王軍三勇者って名前をつけたんだ」

「すごい、そんな物語があったんだ、うんいいと思う。
俺たちもその勇者になれるようにがんばろう」

「お楽しみのところ失礼するわ、それならその勇者たちに今回は、先生がとっておきの場所を案内するわよ」
後ろを振り向くと、先生が取れた頭を腕に抱え込んだまま立っていた。
最初は驚いたけど、もう驚かないぞ。

「あっ、モルガーナ先生」

「皆、魔術や剣術なども上達してきたから、そろそろ行こうかなと思ってね」

「どこに行くんですか?」

「そうね、久しぶりにモンスター討伐のクエストに行かないかしら。
聞いた話によると、強いモンスターが現れたみたいだから」

強いモンスター、いったいなんだろう……
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