第40話 業呪(マギア)

文字数 3,558文字

ここは山岳都市シウコアトルの北側にある黒の密林。

それらが見渡せる崖の上にモーガンさんが何かを待っているのか腕を組みながら森を見渡していた。

「それで帝国に行く前にすることがあるって、何かあるのか」

質問したアスラさんに彼は振り向き、厳しい顔をしながらそう話した。

「奴らが侵攻しているんだよ。
十二の魔獣の中で最強と言われ、万の命、千の都市、百の種族を滅ぼした魔獣クリサンセマムとカトレアが」

「クリサンセマムとカトレアですか」

「お前も知っているのだろうアスラ」

「確か他の魔獣は討伐クラス8に対して、その魔獣は最も高い9でここから北にあるイガルク大陸で魔獣以外の他の生物のほとんどを殺し尽くし、第二の魔獣達の楽園を作った奴らだろう。
だけど、それは帝国で大陸ごと結界を張り巡らして解決したんだろう。
なんで、今になって侵攻を再び始めたんだ」

彼は更に歯を噛み締めながら話し続けた。
「調査したところ帝国が築き上げた封鎖魔術障壁テュロク結界が何者かによって壊されていた。
犯人探しをするよりも先に魔獣から倒さないといけない。
だからお前たち二人の力が欲しい」

「うん、街を守るために魔獣を倒すのは良いですけど、俺たちはどんなことをすれば良いんですか?」

「それは正式名称、第三次魔獣殲滅計画、ケツァコアトル計画、それを実行しようと考えている」

後ろから、飛行艇から降りた黒い軍服のラウさんがそう話してこちらに歩いてきた。
後ろには先生がニコニコした笑顔で手を振っていた。

そして、久しぶりの再会にマーニさんが亡くなったことを伝えると先生は俺たちに気を使ってから、涙は流さなかったが、西の空をずっと見ていた。

✳︎✳︎✳︎

しばらく経ってから、アスラさんが彼に尋ねた。
「それでなんですか、その作戦は」

「まぁ今から話すから座って聞くと良い」
そう言われて、後ろを振り向くと彼とは対照的な白い軍服を着ていた長い黒髪の女性のアマギさんが皆んなのイスの準備していた。

「長くなりますので」

「ありがとうございます」

そして、さっそくラウさんが言っていたケツァコアトル計画の説明を始めた。

「迫り来る魔獣はハリネズミに似た魔獣クリサンセマム、狐に似た魔獣カトレアと言う二種類で、目撃などの情報によるとクリサンセマムが五万匹でそのリーダーであるカトレアが五百匹とされる。
それらをマコトの強者のマギアを使い、彼らを閉じ込めてそこに飛行艇アマテラスで飽和攻撃をおこない、一気に殲滅する。
それで残った魔獣はモーガンとアスラとモルガーナが討伐すると言ったものさ」

✳︎✳︎✳︎

その後、その作戦のため、魔獣の群れが到達するまでに同じ崖の上で待っていた。

バサッバサッバササッ

すると空を舞いながら、その血に染まったような赤い鱗に金色の瞳に四本の手足はコウモリのような翼をしたものがこちらに向かって飛んでいた。

そう、この世界にもいたんだ、空を飛ぶドラゴンが。

「グパァァァァンッッッ!!!」
こちらにも気づいたのか、その竜は魔獣の怒号と同じ咆哮をこちらに向けてきた。
まるで今から殺すと宣言しているように。

「あんなの見たことない、飛んでいるようだし天竜種か始生物のどちらなのか?」
モーガンさんに尋ねられたアスラさんは持っていた杖を強く握りしめた。

「違う、あれは魔獣だ」

「どう言うことだアスラ」

「マコトくん、アスラくん、モーガン、聞こえる三人とも」
すると、電話がわりのの水晶から先生の声が聞こえた。

「はい、聞こえています」

「ラウが言うには、こちらに向かっている魔獣たちの群れの魔力反応が突然ザァー!!!
ザァーげてザァー……」

「先生、もう一度言ってください」

「無理だマコト、あの魔獣の発する魔力でこの水晶が壊れた」

「アスラ、もしかしてお前らが戦った暴食魔獣アテのようなものか奴らは」

「そうだ、あれは強欲に相当する魔獣二体が融合した魔獣デスデモナーだ。
ソドムの林檎が目覚めることに何かしらの脅威を感じて急速な進化を始めているのだろう。
今は完全体では無いが早く倒さないと、この大陸も滅ぼされる」

最強の魔獣の複合体、名前だけでも恐ろしいけど、でも……
「行こう、アスラさん、モーガンさん。
俺たちがあの魔獣を倒さないと」

俺は転生者であり勇者なんだ、勇者として俺を守ってくれたマーニさんにもう恩返しはできない、だけどそれを誰かを守るための力には使えるはずだ。
そう思うと、魔獣と戦うときの恐怖による足の震えはもう無くなっていた。

「マコト、俺も手伝うぜ」

ガチャン

「モーガン、作戦通りする」

「あぁ、二人とも援護を頼む。
あの一体だけなら、俺の技で一気に決めれる」

「じゃあ任せて、強者のマギア発動!!!」

ぐぅいん

四つの翼を使い、まるでミサイルのように突撃してくる魔獣にマギアを展開させた。

ガンッ

パリパリッ

強い、暴食魔獣アテでも簡単には壊せなかったバリアが体当たりだけでヒビを入れた。

「対魔獣ライフル、零式ダインスレイブ、この一撃、全てを込める。
王の祝福、我らは魔獣から世界を守るもの、我らは魔獣から人を守るもの、我らは魔獣から平和を掴むもの。
ここにより天地のマギアを捧げる。
ガカイシキ•ゼロ!!!」
そう言うと、彼の持っていた銃は青く光った。

キュー、カランカランカランッ
ポッ
キィーン!!!

ババババッ

蒼の閃光が放たれたの一瞬だった。
それをバリアを壊そうとしていた魔獣に直撃して一瞬にして四つの翼を焼き焦がした。
「グアアァァァァン」

魔獣は咆哮とともに下に見える黒の密林に吸い込まれて行った。

「へっ、逆に群れで来るよりかは一体になったほうが楽だったな」

「もうモーガンは下がっていいよ、あとは僕が倒すから」

遠くの空に何体もの、今倒した魔獣の群れが空を羽ばたきながらこちらに向かっていた。
正確な数はわからないが、空が魔獣によって赤く染まった。
それが地平線の果てまで染まっていていた。

「まさか、大陸にいた魔獣全てが複合して、こちらに侵攻しているのか」

「嘘、なんで……」
多いとは分かっていたけど、まさかこんなに想像以上だった。
勝てない、その言葉を思い浮かぶと再び足が震えた、なんでさっきは震えなかったのに。

「マコト、怖かったら怖かったでいいですよ。
それが人として当たり前だから」

そう言い彼が前を歩くと。
カランッ

何かを落としたことに気づき、それを拾い上げると。
紫の結晶に黒い瘴気を出している。
これは見覚えがある魔力の結晶、魔石だ。

目の前を見ると、彼は無表情で拾った魔石を返すように手のひらを見せてきた。

「ダメだよ、アスラさんまた魔石を食べようとして、モードレッドさんに止められていたんじゃ無いですか」

「知っている、だからこそ返して」

ガシッ

彼は魔石を取り返すように自分の握ったコブシを強く解こうとした。

「返して、本当に返して!!!」
段々と彼は焦り、力も強くなってきた。

「おいおい、こんなところでケンカするなよ」

ブゥンッ

「痛っ」

俺はアスラさんを振り解き、少し離れた。
「ごめん、アスラさん。
でもアナタばかり無理して戦わないで、アスラさんの頑張る分、俺が頑張るよ」

「ガリガリッ」
アスラさんの持っていた魔石を口に入れた。
味の感想としては石を食べているようでかみ砕くたびにジャリジャリした。
これで俺のマギアで……

「ダメ、食べないでそれを」
アスラさんは鬼気迫る顔でこちらに向かってきた。

すると、俺は一瞬にして視界が真っ暗になって、そのまま意識を無くした。

✳︎✳︎✳︎

パチンッ

目を覚ますと、俺はベットの上に寝ていた。

「あれ?
魔獣たちは」

「魔獣なら、マコトが気を失っている間に倒しましたよ」
その隣にはケガをして両腕に包帯をしたアスラさんが座っていた。

「アスラさん、その腕は」

「別にマコトが気にすることではないから。
それと明日には帝国に到着するから今はゆっくり休めば良いよ。
じゃあ、僕はこれで」
そうして、彼は部屋から出て行こうとした。
その前に言わないと。

「待って」

そう言うと彼は振り向き、開いたトビラの前に立っていた。

「どうしたマコト、痛いところでもあるの」

「いいや違うんだけど、その俺が勝手なことして、アスラさんやモーガンさんたちにも迷惑をかけたから、先にアスラさんに謝ろうかなと」

「いいや謝らなくていい、マコトは僕を思ってやってくれたのだろう。
謝るのは僕の方だ。
ごめん。
……でもこれだけは言わせて、必ずアナタだけでも幸せにするから」

「アスラさん、最後のそれってどういう意味なの?」
そう聞くと彼は無言で背を向けて、そのまま部屋から出て行った。

なんかまずいことでも言ったのかな?

でもなんだろう、彼にとって何かしらの意味がある言葉だと思うのだけど。
そういえば、アスラさんの過去ってなんだろう。

窓に写る飛行艇よりも高い空に飛んでいる星を見ながら、そんなことを思っていた。
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