第45話 モロート・時環 

文字数 3,620文字

キーンコーンカーンコーン

鳴り響く懐かしい鐘の音、かつて置いて行かれた景色がそこにはあった。
その景色を見ると、かつて閉じたビンにしまわれた記憶がフタを開けた。

「ここは……」

まさか現実世界に戻れたのか、いいや死んで異世界であるエリシオンに行ったはずだ。
でも、ここは俺が通っていた見慣れた滝宮中学校の教室だ。
すると、二つ隣のクラスの三年C組の教室から声がしてきて気になってそっちのほうに向かった。
向かっている間、窓の外を見ると太陽が紅く沈んでいた、今は放課後なのかな?

教室に入って見ると誰か二人いるようだ、一人は見覚えのあるサッカーが好きで男しかいないサッカー部で唯一の女子であったヤマトだった。

その黒い長髪のヤマトという人は、俺が前いた世界で小学校からの親友で幼なじみだった。

「あぁー、放課後の掃除だるいわ。
明日来、早く終わらせてサッカーしようぜ」

もう一人は……
えっ、なんでアスラさんがここにいるんだ、まさか彼も転生者だったのか。
確かにマスターも吸血鬼は夜しか活動できないのに、アスラさんは昼でも活動していた珍しい体質の吸血鬼で聞き流していたけど、そういうことだったんだ。
彼は吸血鬼じゃなくて、転生者だったのか……

「いや、ごめん受験勉強があるから。
僕は帰るから」
そう言うと、アスラさんはバックをからって教室の外に出ようとした。

バッ

すると、ヤマトは彼を帰らせないように彼の前にゴールキーパーのように手を広げていた。

「おっと簡単には帰らせないぞ、お前本当に海野高校に行くのかよ」

「そうだけど」

「このオレと一緒の高校に来いよ、この裏切り者〜!!!」

「痛いな、やめろよ〜」

アスラさんがこんなにも笑っているところなんて初めて見た、でもなんだかとても幸せそうだ。

「でもオレも頑張るからよ、明日来も頑張れよ」

「あぁ、頑張るよ」

そうかこれはアスラさんの過去なのか。

そして、掃除が終わってヤマトと別れたアスラさんの後に俺はついて行った。
たぶん、人には見えてないけどストーカーみたいでなんか嫌だな。

これがアスラさんの家なのか、かなり大きい家だな。
名字は神様に暁と書いて、神暁(シンギョウ)って読むのか、神暁アスラさんなんだ。
なんかカッコいいね。

すると、後ろから誰かの気配がして、振り向くと、自分と同じ姿をした人が立っていた。

「これがアスラさんのマギア、心奥のマギアが見せているもの。
思うことによって、相手の思考を読み取れるもの。
それを使い、俺はあなたにそれを見せている」

「一体誰なんだ、アナタは」

「俺はもう一人のマコトだったもの。
アスラさんの過去を知るもの。
今は静かに彼の心と過去を見ていて欲しい」

不思議なことを言う人だけど何故か信用できる、もう一人の自分と言うけど、なぜかアスラさんと同じような感じもする。
「分かった、俺知りたいよ、アスラさんの過去」

「ありがとう、では始めようか」

そして再びアスラさんのほうを見ると、家のトビラを開こうとしていた。

ガチャ

スタスタッ

「ただいま」

「おかえりー、アスラ」
彼が帰ると玄関のほうに彼と同じ綺麗な黄金色の長髪の女性が嬉しそうに歩いてきた。
恐らくアスラさんのお母さんだろう、外国の人だろうか?

「母さん、今日の夕食は」

「今日は、ポトフだね」

「分かった、勉強が終わったら降りてくるから」

手洗いを終えたアスラさんは自分の部屋に向かうために階段を登って行った。

スタスタッ

カチャン

そして場面が変わり、今日が二月十七日、滝宮高校の受験当日、アスラさん頑張ってね。

「頑張ってね、明日来」

「あぁ、頑張るよ」

✳︎✳︎✳︎

そして、アスラさんは無事受験が終わり、ホームの前で帰りの電車を待っていた。
もうそろそろ、来そうだな。

「後五分後に電車が来ます、電車が来ます。
お客様は黄色の線までお下がりください」

すると、駅のホームに降りてくる階段のほうが騒がしかった。

「誰か捕まえてくれ、こいつ痴漢してたぞ!!!」

「なんで、バレたんだよ、ふざけやがって、ふざけがって」

駅のホームに降りる階段のほうから中年ぐらいのおじさんが何か必死な様子何かから逃げていた。
後ろには、ガタイの良いサラリーマンみたいな人が追いかけていた。

「どけよ、このガキ」

するとアスラさんのほうにそのおじさんがこちらに向かって来て、彼を無理矢理押しのけた。

「うわっ」

グラッ

ドガッ

バランスを崩した彼は、そのまま電車の通る線路に落ちた。
「……」

打ちどころが悪かったのか、彼はピクリとも動けず気絶した様子だった。
早く助けないと、電車に轢かれる。
でも、俺じゃ何もできない。

キィーン!!!

電車は汽笛を鳴らしながら、すぐそこまで迫っている。

「誰か、誰か助けてくれぇぇぇ!!!」

そう、俺が叫ぶと横から誰かが通り抜けた。
その人はアスラさんを抱えると、すぐにホームの上にいた人たちに彼を上にあげた。

「早く、上がれー!!!」

ホームの上にいた人は、誰もが叫んだ。
電車は今どこにいる?

あっ

キィキィキィー!!!
グチャー!!!

電車は、急ブレーキをかけていたが間に合わなかった。

助けに入った人は言葉にできない姿になっていた。

「うっ、おえっ」
さすがにその惨状に俺も耐えることができずに思わず吐いてしまった。

カチャン

そして場面は変わり、ここは病院のベッド、アスラさんは眠っているけど大丈夫そうだね。
時計を見る感じだと、夜の10時ぐらいか。
あれから4時間ぐらい経ったのか。

すると、隣のベッドでテレビを見ていた人がいた。
そのテレビを見てみると。

「今日の夕方、滝宮駅で人身事故がありました。
――中学生一名を助けようと、中学三年の神楽誠(カグラマコト)君が電車に巻き込まれ、搬送先の病院で死亡が確認されました」

そうか、あれは俺だったのか。
確かにそう言われると寒い日だったよな。

カチャン

また、場面が変わった、今は次の日の朝か。
そこには、アスラさんと彼のお母さんとその病院のお医者さんがいた。

頭に包帯をしているアスラさんが体を震わせながら話していた。
「あの時、僕を助けた人は死んだんですか、本当に死んでしまったんですか」

「明日来君、君は悪くないんだ」

「なんで僕なんか、なんで見ず知らずの僕を助けたんだ、誠さんは」

カチャン

それから場面が変わり、そこに見えるのは、クリーム色の壁に黒い屋根、父さんと二人で一緒に暮らした俺の家だった。
車止まっているし、父さん今日は休みだったのかな。

ピンポーン

家から出てきたのは、父さんだった。
もう昼なのに黒髪の寝癖も直してなく、服もパジャマのままだった。

父さん、毎朝俺に身だしなみを整えるように口酸っぱく言っていたのに、でもその原因は分かっている。
ごめん、父さん。

「はい誰ですか、マスコミの方はお断りですが」

「誠さんのお父様ですか。
息子の命を救っていただいた誠さんのお焼香をしに参りました」
アスラさんの母親がそう言うと、父さんは眉をひそめ静かに話した。

「二度と来ないでくれ、焼香なんかしても誠が帰ってくることはない。
これ以上、誠をヒーローだのと持ち上げずにそっとさせてくれ」

ガチャ……

カチャン

父さんはそう話すとドアを閉め鍵を閉めた音も聞こえた。
本当にごめん、父さん……

そして重い足取りで二人が帰ろうとすると。

「待って、明日来」

するとそこにいたのは、近所にいたヤマトだった。

「ヤマトごめん、アナタの一番の親友を……」
彼はそう言うと、涙を流しながらそのまま走り去って行った。

アスラさんのお母さんに一礼された後、彼女はそこで何も言わずに立ち尽くしていた。

カチャン
また場面が変わり、次はカレンダーを見るにアスラさんの受験合格の発表日だった。

アスラさんは部屋で布団をずっと被っていた。

コンコンッ
「明日来、今日、受験発表日よ。
外にはヤマトさんも待っているのよ」

「僕は行かなくて……
いや行くよ、誠さんに助けられた命だから彼の分まで僕が頑張らないと」

そう言って彼は立ち上がり暗かった部屋のカーテンを開けた。
よかった、アスラさんが前を向いて歩んでくれた。
そう喜んだものも後から意味もないものとなった。

カチャン

再び場面が変わると、目の前には対向車線からはみ出たトラックが近くのコンクリートの壁に激突して、そこから炎が出ていた。

ボォォォォ

「明日来!!!
  明日来!!!」

ヤマトは体と声を震わせながら、彼の名前を呼んでいた。

「危ない、キミ」
燃え盛る炎の中に飛び込もうとした彼女近くの大人たちが止めていた。

「なんだよ、何なんだよこれは。
じゃあ、アスラさんは死んだってことなんですか。
ふざけるな、こんな理不尽なことがあるのかよ!!!」
運命というものはあまりにもひどい、このやり場のない怒りをどこにぶつければいいんだよ。

すると、俺と似た姿の人が横に現れて悔しさを噛み締めるように話した。
「彼の旅はここで終わるんじゃない、今から始まるんだ」

その意味はまだ分からない、でもアスラさんの旅は見届ける、それを俺は心に誓うと、周囲の景色が変わり始めた。
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