第30話 蒼海(りゅうきし)
文字数 1,748文字
朝日は海から昇った。
照らされる太陽はただ眩しかった。
バキバキィ
ドガッ
ドガッ
「クワァァァン、クワァァ、クワァァァァン!!!」
魔獣を生み出した大樹はモードレッドさんの毒によってメキメキと樹皮が破れていき粉状になり、空へ海風と共に飛んでいった。
周囲にいた大樹から生まれた魔獣達も苦しみの声を上げながら、塵状になっていった。
「色欲のリンネが崩れていく、モードレッドさん」
立ちつくす俺の隣にいた彼はそれを背にして静かに言った。
「行こう、マコト。
まだ街の生き残っている人達がいるかもしれないから」
「でも、モードレッドさんがあの中にいるんですよ」
俺は言い止めた、まだ間に合うという願いの希望にすがるように。
「彼は僕たちを救う為に中に残ったんです。
その彼の思いを無駄にもさせない為にも僕たちは歩くしかないんですよ、どんなに辛くても」
アスラさんは強いよ、でもその強さがたまに恐ろしく感じてしまう。
「二人とも、大丈夫だった」
すると、魔獣の血で汚れ、傷だらけのマーニさんがこちらに走ってきた。
外でだいぶ戦っていたんだ。
「いや、モードレッドさんが……」
「そうなの、本当にカッコよくて、良い人だったのに」
ガチャ
何か武器が地面についた音がしたため、その方向を見ると、アスラさんの手には杖があった。
「マーニ、まだリンネから生まれた以外の魔獣は残っているだろう、早く倒しにいこう」
彼が静かにそう言うと、悲しんでいる彼女の瞳はカッと開いた。
「魔獣って、君ね!!!」
ブンッ
パンッ
気づいた時には彼の頬は赤くなっていた。
マーニさんがアスラさんを殴ったのだ。
「アスラさん!!!」
俺がそう叫ぶと、マーニさんは彼を睨みつけながら怒鳴った。
「アスラ、君には感情がないの。
モードレッド様は君を助けたのに君は悲しくも何もないの」
怒っている彼女にそう言われた、彼は怒るというより諭すような口調で話した。
「今、悲しんでいる暇なんてないんですよ、一刻も早く魔獣を倒さないと助かる人も助からなくなり、残されたものは悲しみしか残らない。
彼に助けもらって今できるのはこれしかないんですよ。
気が済まないんでしたら、もう一度殴っていいですよ」
「アスラさん……」
マーニさんがもう殴らないと感じたのか、彼は彼女の掴んだ手を払い、背を向けまだ生き残っている魔獣の元まで走り出した。
走り去るアスラさんを俺はただ見ていることしか出来なかった。
そして、そこに残されたマーニさんは彼を思いっきり殴って赤くなった手を片方の手を掴みながら、体を震えて話し始めた。
「殴っちゃった、こんなつもりじゃなかったのに。
人を殴るために強くなったわけじゃないのに」
「マーニさん、後で俺も一緒に行くから謝りましょう」
「マコト、ごめんなさい。
君にも心配かけてしまって」
「いいですよ、お互い様ですから。
さぁ、行きましょう、モードレッドさんが守ろうとしたものを守るために」
✳︎✳︎✳︎
それから数日が経過し、残った魔獣も全て倒した。
あの戦いの中で守れた人もいたが守れなかった人のほうが多かった。
それと同じく、リンネを倒した彼は未だに帰って来なかった。
俺たち三人が今いるのはあの戦いの後に突然現れたチューリップの花畑。
それはこの都市の名前にもなったモードレッドさんの持っていた黒い大剣クラレントだった。
魔獣との戦いが終わった後、この花畑に突き刺さっていたらしい。
俺は、モードレッドさんの荷物に残っていたミーナさんに渡すはずの彼の手作りのキャラメルの入った袋をそこに置いた。
「モードレッドさん、俺はもう行くよ。
今でも魔獣や暴食のリンネに苦しんでいる人がいるかもしれないから。
そして、いつか転生者がリンネにならない方法も見つけるよ」
「マコト、今言った言葉を絶対に忘れないでどんな困難があっても必ずその先には希望があるのだから」
「分かりましたありがとうございます、アスラさん。
もう、俺は前のように立ち止まったりしないから」
そう言って空を見上げると、そこは雲ひとつもない蒼穹だった。
蒼海の風が吹く孤島都市クラレントは今日も穏やかな波とともに、今日という平和な時を書き綴った。
「エーン、エーン」
「ギィシャァァァァァ」
しかしアルビオンカモメの泣き声と、ジャバニクスの悲しみの咆哮だけはずっと耳に波の音ともに残っていた。
照らされる太陽はただ眩しかった。
バキバキィ
ドガッ
ドガッ
「クワァァァン、クワァァ、クワァァァァン!!!」
魔獣を生み出した大樹はモードレッドさんの毒によってメキメキと樹皮が破れていき粉状になり、空へ海風と共に飛んでいった。
周囲にいた大樹から生まれた魔獣達も苦しみの声を上げながら、塵状になっていった。
「色欲のリンネが崩れていく、モードレッドさん」
立ちつくす俺の隣にいた彼はそれを背にして静かに言った。
「行こう、マコト。
まだ街の生き残っている人達がいるかもしれないから」
「でも、モードレッドさんがあの中にいるんですよ」
俺は言い止めた、まだ間に合うという願いの希望にすがるように。
「彼は僕たちを救う為に中に残ったんです。
その彼の思いを無駄にもさせない為にも僕たちは歩くしかないんですよ、どんなに辛くても」
アスラさんは強いよ、でもその強さがたまに恐ろしく感じてしまう。
「二人とも、大丈夫だった」
すると、魔獣の血で汚れ、傷だらけのマーニさんがこちらに走ってきた。
外でだいぶ戦っていたんだ。
「いや、モードレッドさんが……」
「そうなの、本当にカッコよくて、良い人だったのに」
ガチャ
何か武器が地面についた音がしたため、その方向を見ると、アスラさんの手には杖があった。
「マーニ、まだリンネから生まれた以外の魔獣は残っているだろう、早く倒しにいこう」
彼が静かにそう言うと、悲しんでいる彼女の瞳はカッと開いた。
「魔獣って、君ね!!!」
ブンッ
パンッ
気づいた時には彼の頬は赤くなっていた。
マーニさんがアスラさんを殴ったのだ。
「アスラさん!!!」
俺がそう叫ぶと、マーニさんは彼を睨みつけながら怒鳴った。
「アスラ、君には感情がないの。
モードレッド様は君を助けたのに君は悲しくも何もないの」
怒っている彼女にそう言われた、彼は怒るというより諭すような口調で話した。
「今、悲しんでいる暇なんてないんですよ、一刻も早く魔獣を倒さないと助かる人も助からなくなり、残されたものは悲しみしか残らない。
彼に助けもらって今できるのはこれしかないんですよ。
気が済まないんでしたら、もう一度殴っていいですよ」
「アスラさん……」
マーニさんがもう殴らないと感じたのか、彼は彼女の掴んだ手を払い、背を向けまだ生き残っている魔獣の元まで走り出した。
走り去るアスラさんを俺はただ見ていることしか出来なかった。
そして、そこに残されたマーニさんは彼を思いっきり殴って赤くなった手を片方の手を掴みながら、体を震えて話し始めた。
「殴っちゃった、こんなつもりじゃなかったのに。
人を殴るために強くなったわけじゃないのに」
「マーニさん、後で俺も一緒に行くから謝りましょう」
「マコト、ごめんなさい。
君にも心配かけてしまって」
「いいですよ、お互い様ですから。
さぁ、行きましょう、モードレッドさんが守ろうとしたものを守るために」
✳︎✳︎✳︎
それから数日が経過し、残った魔獣も全て倒した。
あの戦いの中で守れた人もいたが守れなかった人のほうが多かった。
それと同じく、リンネを倒した彼は未だに帰って来なかった。
俺たち三人が今いるのはあの戦いの後に突然現れたチューリップの花畑。
それはこの都市の名前にもなったモードレッドさんの持っていた黒い大剣クラレントだった。
魔獣との戦いが終わった後、この花畑に突き刺さっていたらしい。
俺は、モードレッドさんの荷物に残っていたミーナさんに渡すはずの彼の手作りのキャラメルの入った袋をそこに置いた。
「モードレッドさん、俺はもう行くよ。
今でも魔獣や暴食のリンネに苦しんでいる人がいるかもしれないから。
そして、いつか転生者がリンネにならない方法も見つけるよ」
「マコト、今言った言葉を絶対に忘れないでどんな困難があっても必ずその先には希望があるのだから」
「分かりましたありがとうございます、アスラさん。
もう、俺は前のように立ち止まったりしないから」
そう言って空を見上げると、そこは雲ひとつもない蒼穹だった。
蒼海の風が吹く孤島都市クラレントは今日も穏やかな波とともに、今日という平和な時を書き綴った。
「エーン、エーン」
「ギィシャァァァァァ」
しかしアルビオンカモメの泣き声と、ジャバニクスの悲しみの咆哮だけはずっと耳に波の音ともに残っていた。