文字数 3,210文字

 風を切り、鳥と並行しながら飛行して間もなく目的地に到着。そこは冒険者ギルド。まずは報告をしないと思い、ぼくはフェリヤにここに行くようお願いをしていた。
「はい! とーちゃーく!」
 飛び終わってもなおはしゃぐフェリヤを落ち着かせ、ぼくはフェリヤとともに冒険者ギルドに向かって歩いていると、すでに何人かの冒険者がぼくに気が付き手を振ってくれた。それに応えながら冒険者ギルドを見ると、あちこち襲撃のあとが残っておりその修復作業をしていた。中には指揮官であるアメリアさんも自ら資材を運び汗を流していた。所定の場所に資材を置いて一息ついたアメリアさんはぼくに気が付くと、ぱっと顔を明るくしながら歓迎してくれた。
「おお……無事だったか!!」
 アメリアさんは軽く頭を撫でたつもりだったと思うのだけど、その力があまりに強く意識が飛びそうだった。ひとしきりぼくの生還を喜んだのち、ぼくの後ろにいるフェリヤに気が付き、アメリアさんは腰を落とし挨拶をした。
「わたしはアメリアだ。よろしくな。君は何ていうんだい?」
「あの……ふぇ……フェリヤって言います」
 少し恥ずかしそうに答えるフェリヤにアメリアさんはにこっと笑い、「よろしくな。フェリヤ」と言い頭に手を置いた。アメリアさんはすっくと立ちあがり今の状況を簡単に教えてくれた。ぼくが戻る数分前、突然機械人形たちの行動がぴたりと止んだそう。それからこの近辺で戦ってくれた冒険者たちで復旧作業を行っている最中なんだとか。
 人手も満足にいるわけではないので、そこは冒険者たちが駒を操り手分けして資材を確保したり運搬したり直したりとしてくれていて、冒険者ギルドももう間もなく修復が完了するそうだ。
「それにしても……よくやってくれたな。お前に教えることはもうなにもない。むしろ、色々と教えてほしいくらいだ」
 ぼくはなんだか恥ずかしくなり言葉に詰まっていると、遠くで誰かの声が聞こえた。それは一つだけでなく二つに、二つから四つと段々と重なっていった。ぼくは声のする方へと向くとそこには傷だらけになりながら満面の笑顔を浮かべて歩いてくるナギールとティミルだった。
「おーい! こっちももう終わったぞー!」
「よかった。あなたも無事だったのね」
「よかったよかった」
「あれ。俺様、なんで頭ガこんなにいたいンダ??」
 二人の後ろにはやりきった顔をしたアズリエルと骨三郎、そしてまだぼくの知らない二人の仲間が続いていた。ぼくはいてもたってもいられなくなり、二人のもとへと駆け出した。そして二人の無事を心から祝った。感極まってしまったのか、ぼくは涙が止まらなくなり続いて足に力が入らなくなりその場にすとんと落ちてしまった。ナギールとティミルは急いでぼくを担ぐと、普段見ないぼくの泣き顔にぎょっとしていた。
「何かあったのか??」
「あなたの泣いている顔、初めて見たから……あとで聞かせて頂戴」
 ぼくは二人にありがとうと言うと、ナギールの後ろから現れたアズリエルがぼくの袖をちょいちょいと引っ張った。
「……おつかれさま」
 アズリエルの労いの言葉にまた涙が溢れそうになるのを必死に堪えながら、ぼくは小さく頷いた。情けない恰好のままギルドへ戻る途中、ナギールとティミルが出会った仲間を紹介してくれた。ナギールの後ろを歩いていた少年エルケス。彼は少年とは思えないほどの力で沢山の機械人形を壊していったとか。そして今はいないが、古の竜バハムート。その竜も腕を振るうだけであっという間に機械人形の軍勢を屠ったという。とても頼もしい仲間だとナギールは嬉しそうに話してくれた。
 一方ティミル。仕事で忙殺されている中、助けてくれたというオルプネーという長身の女性。なんでもシャドウワームという使い魔を使って機械人形のエネルギーを吸い取ってくれ、弱ったところに冥土の川の渡し守カロンが追い打ちをかけたんだとか。最初、図書博物館に入ったときは小さい少女が楽しそうに読書をしていたけど、ほかのところをお願いって言われて出て行った先にいた大きな猿のような悪魔マルバスとともに戦ったんだとか。非常に礼儀正しいところはいいのだが、美術品に手を出そうとしたときのマルバスは悪魔としての顔を出したようでとても怖かったとティミルは震えながら教えてくれた。
「おれたちばかりじゃなくてお前の話も聞かせてくれよ」
「そうよ。どんなことがあったのか聞かせてちょうだい」
 もちろんと返すとき、冒険者ギルドの入り口では食堂のおばちゃんが大きなおたまを持ってぼくたちを迎えてくれた。
「ご飯の用意はできてるよ。さ、たぁんとお食べ。そこにいる皆さんも遠慮しないで。というか、遠慮したらタダじゃおかないよ」
 喜んでいるのか怒っているのかちょっとよくわからないけど、皆を食堂に招くとあっという間に食堂は満席になった。ほかの冒険者も作業がひと段落してご飯にありつこうとしたのも相まってか、食堂の入り口には長蛇の列ができていた。作業を終えた冒険者の中には空腹の限界を突破していたのか、涙ながらに訴えたがおばちゃんはそれを一蹴した。
「そんなにボヤきなさんな。皆の分をちゃぁんと用意してあるからそこで大人しく待ってな」
 おばちゃんは楽しそうにスープをかき混ぜながら手早く料理を仕上げていく。目にも止まらぬ体捌きであっという間に皆の分を配膳すると、「うん」と言い満足そうに笑った。全て整ったのを確認したエルケスが料理に手を出そうとしたとき、おばちゃんがそれを素早く制した。
「おっと。食べる前にあたしから一言。……みんな、よく無事だったね。そして、おかえり」
 おばちゃんの「おかえり」というたった一言が、今まであった辛かったことを全て流してくれるような気がしたぼくは、また目から涙を零していた。嬉しくて嬉しくて……皆が無事でよかったという気持ちも混ざり合ってぼくは両手で顔を覆って泣いた。
「どうしたんだよ兄ちゃん。いきなり泣き出して」
「まぁま。そういうときがあるってことだ」
「……そうなのか?」
 エルケスは不思議そうに首を傾げながら隣にいるナギールに聞いていた。ティミルの隣に座っているオルプネーも何か通ずることがあったのか、目にうっすらと涙を浮かべていたと後で聞いた。そしてそんなぼくを見て首を傾げている子がもう一人いた。フェリヤだった。フェリヤは何度も首を傾げながらぼくの肩を揺らした。
「ねぇね。あなたは何で泣いているの?」
 ぼくは絞り出した声で嬉しいのと寂しかったと答えると、フェリヤはまた首を傾げた。
「寂しい? 寂しいってなぁに??」
 その言葉にナギールとティミルは席を立ち驚いていた。ぼくは二人に事情を話すとようやく二人は納得し、席に着いた。彼女にはまだそういった感情というものがわからない。だから、それを教えてあげてほしいと守護者に言われたじゃないか。ぼくはフェリヤに後で寂しいとはどういった気持ちかを教えると言うと、フェリヤは元気よく「うん!」と答えた。
「さぁ、料理が冷めちまうよ。ほら、あんたもいつまでも泣いてないで。たっくさんお食べ」
「そうだそうだ」
「では、皆さん。ご一緒に」

               「「いただきます!!」」
 
 こうして数々の困難を共にした皆と楽しい食事が始まった。エルケスは大きな肉を嬉しそうに頬張りながら、オルプネーはスープとパンを口にした途端泣きながら、フェリヤは目に映るもの全てにはしゃぎながら口を動かした。アズリエルも骨三郎もおばちゃんの手料理に頬をとろけさせているのを見たぼくも、料理を手に取った。そして、皆と同じように頬をとろけさせた。
 皆が嬉しそうに食事する姿を見たおばちゃんは、何度も頷きながら厨房へと戻っていった。新しい食事を用意しながらおばちゃんの声が食堂全体に響いた。
「おかわりはいくらでも用意してあるからね。腹いっぱい食べていきな」
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