踊り場 第十一階層

文字数 1,552文字

 気が付くと、ぼくはまた踊り場で意識を失っていたみたいだ。ずんと重たい頭をゆっくりと持ち上げながら状況を整理した。ぼくが最初に目が覚めたとき、目の前にいた少女はなんらかの理由で白い世界に閉じ込められていた。閉じ込められていたけど、これもなんらかの理由で少女の中に眠っていた力が目を覚まし白い世界を破壊し外へと飛び出した。そして、ゼウスやハデスと対峙するも気絶をさせることはできても、少女に傷をつけることができていないという恐ろしい事実があった。
 これはあくまでぼくの考えだけど、あの少女がいた白い世界というのはきっと少女を封じ込める檻だったのではないかと思った。なぜなら、少女が白い世界から外へと飛び出したときに感じた膨大な魔力を体全体で感じていたから。そして少女をあの世界に閉じ込めておく理由は……これも言わずもがな、少女の力があまりにも強大すぎるためだと思う。好奇心で山を壊し、遊び感覚でゼウスに大ダメージを与えるなんて並大抵の力を有しているのではないかと。
 二人の神が抗ってもあの少女に傷を負わせることができないなんて……一体どういうことなんだろう……ぼくはあの光景から見たものを思い出すと身震いが止まらなかった。だけど、こうしている間にもナギールやティミルたちが必死にこの世界を守ろうとしているのに、ぼくだけがこうして足踏みしている場合じゃない……。そう思い、自分の頬を思い切りばちんと叩き気持ちを切り替え、次の階層─十一階層の扉に手をかけた。

「ほう。珍しいな。ここに客人が来るなんて久方ぶりだ……」
 長身痩躯で赤と白の髪、銀色の鎧に身を包み片目は眼帯で隠されている北欧神話上に登場するヴァン神族主神─オーディン。自信たっぷりな笑みを浮かべながら愛槍グング・ニールの切っ先をぼくに向けた。
「貴様がこの先を通るに相応しいか……試させてもらおうか」
 そう言い、オーディンは早速防御魔法を展開した。オーディンの周りに淡い膜が張り、ぼくからの攻撃を遮断する準備を整えた。
「さぁ、この防御を如何にして潜るのか。貴様の答えはなんだ」
 防御といってもいくらかは与えることはできると思ったぼくは、デッキから一枚選び展開した。白と茶色の毛色をし、体に見合わないくらいに大きなハンマーを持った獣人─ポポンが大きく振りかぶってオーディン目掛け振り下ろした。
「オイラのハンマー、甘くみるんじゃないよ」
 薄いガラスを割ったような音と共にオーディンが展開した魔法障壁は破れ、ポポンの大きなハンマーはオーディンの肩に深く入った。驚いたように目を見開いたオーディンはすぐに体勢を整え、再度魔法障壁を展開しながらこちらを睨んだ。
「ならば……これはどうだ。穿て! グング・ニール!!」
 オーディンは神槍グング・ニールに魔力を込めた。魔力を込められたグング・ニールからは紫色の稲光がばちばちと迸り、大きくなっていった。ぼくは危ないと思いすぐに次の駒を選び、投げられる前に展開した。
「安心してください。あなたを導きましょう」
 美の女神─ヴィーナスを呼び出すと、ぼくとポポンの周りを柔らかな光が包んだ。そしてヴィーナスの愛と平和の思いを込めた祈りがオーディンへと向けられると声なき声を発しながら倒れた。
「あらあら。恥ずかしがり屋さんですね。次はもっと心を開いてくださいね」
 ヴィーナスがくすくすと笑いながら駒へと戻ると、次いで周りに危険がないことを確認したポポンも深くお辞儀をしながら駒へと戻っていった。そして例のように、オーディン

ものはいつの間にか機械人形へと変わっていた。そして次の階層へと続く扉が開かれ、ぼくは次の階層へと向かった。
 この塔はぼくに何を求めているのだろう……。そんなことを思いながら、ぼくは一段一段上っていた。
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