文字数 771文字

 ゼウスから聞かされた話が、にわかに信じられなかった。だけど、今はそれを信じるしかなかった。ゼウスに言われたことをあとで整理して、みんなに話さないと……。
 とりあえず、これで目的も達成できてこの国を出るだけとなったけど、最後にヘスティアーさんに挨拶をしてから帰ることにした。何かとお世話になった方だし、アズリエルもお礼が言いたいと言ってたからね。キッチンの扉を軽くノックをすると、中から嬉しそうな声が聞こえた。もうわかっているのかな。扉を開けた先には満面の笑顔で出迎えてくれたヘスティアーさんが立っていた。
「おかえりなさい! ごはんできてるわよ!」
 そういってぼくたちを招き入れてくれた。テーブルの上にはたくさんの料理がずらりと並び、どれもこれも美味しそうだった。席に着き、両手を合わせて挨拶をしてからぼくたちはヘスティアーさんお手製の料理に舌鼓を打った。

 食後のお茶を飲み干し、ぼくたちはそろそろ自分たちの世界へ帰ることを告げると、ヘスティアーさんの表情が少しだけ曇った。「わかってはいたけど……ね」と辛そうな言葉に、ぼくの胸は痛んだ。でも、これが最後じゃない。またきっと会えるとヘスティアーさんに言い、ぼくたちは別れを告げた。
「元気でね。またいつでも来てね。美味しいごはんを作って待ってるからね」
 ぼくとヘスティアーさんは涙を零しながら別れると、つられてアズリエルも目に涙を浮かべていた。
「……また一緒にここでごはんたべようね」
 アズリエルの言葉に、ぼくはうんと頷いた。すべてが終わったらまたこの世界のひとたちに会いたいと思ったから、これは今生の別れじゃない。そう自分に言い聞かせながら、ぼくは最初にきたときの扉に手をかざして意識を集中させた。次第に薄れていく意識の中、ぼくの頭の中にはヘスティアーさんのあの眩しい笑顔がずっと映っていた。
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