文字数 1,754文字

 後日。おれたちが対峙していたのは伝説の古代竜─バハムートだということがわかった。そのバハムートは力を欲するものの前に現れては「力が欲しいか」と問うているらしい。実際、おれたちもそう聞かれ、素直に「欲しい」と答えた。ここであいつと違ったのは、バハムートから右手を差し出せと言われたことだった。おれはその通りに右手を出すとそこにはバハムートの顔が刻まれた駒と、今回の目的である竜の証が現れた。バハムート曰く「挫けぬ心、そしてそれを力に変えて立ち向かったことは賞賛に値する」とのことだった。バハムートの駒を手にしたとき、バハムートの鼓動が伝わってきた。これはそれほどまでに強力なものなのだと実感し、おれはバハムートにお礼を言った。
「お前に一つ聞きたいことがある。なぜわたしの力を欲するのか」
 バハムートの問におれは、今おれたちの世界で起こっていることを説明した。いきなり巨大な建物が現れたというと、バハムートの表情は少しだけ曇った。なにやらまずいことでもあるのかと思っていると「手を貸さないわけにはいかない」と言い残し、どこかに飛び去ってしまった。なお、闘技場で氷漬けになっているノイレに事情を話すと大層驚いた様子だった。「騙されたー」と叫びながら頭を抱えていたときはどうしようかと思ったけど、ノイレはすぐに気持ちを切り替えたのかおれの手をぐっと握りながら「よし。お前に付いていく。その方が面白うそうだしな」と言い、ノイレの顔が描かれた駒を(半ば無理やり)持たされた。
「じゃーなー! いつもで暴れる準備できてるからなー!」
 と嬉しそうに走り去っていくノイレを見送りながら、おれたちは闘技場を後にした。

「あらエルケスおかえ……って、あんたぼろぼろじゃないか! 一体何があったんだい」
 エルケスの家に戻ると、嬉しさ半分驚き半分の母親が迎えてくれた。すぐさま傷の手当をする母親にエルケスは事情を説明すると、ウィルとルゥを見てにっこりと笑った。
「辛かったねぇ。でも、もう大丈夫だよ。うちで暮らしてしていきな」
 そんなことを言われるとは思っていなかった二人は、「そんな」と言いながら首を横に振っていたが母親の説得に負け、エルケスの家で暮らしていくことになった。
「あ……あの。お邪魔します……」
「お邪魔します……」
「もう! お邪魔しますじゃないだろ! ここはもう二人の家でもあるんだから、戻ってきたときに言うのは……あれしかないだろ?」
 母親にウインクされ、二人は戸惑いながらも口を揃えて「ただいま」と言った。すると母親は柔らかい笑顔で「うん。おかえりなさい!」と返した。そのことが嬉しかったのか、ウィルは涙を流していた。遅れてルゥも涙をすると母親は「もう。困った子たちだねぇ。ほら、泣かないの。もう安心していいんだから。ね? よしよし」とあやしていた。

 ウィルとルゥが安心して暮らせることに安心したおれは、このまま静かに村を出ていこうとしたが……それは失敗に終わった。なぜなら、村の出口にはエルケスをはじめ村の住人たちが立っていたのだ。
「黙って行こうだなんてそうはいかないよ」
「兄ちゃんにはお世話になりっぱなしだったから、お礼くらいは言わせてくれよな」
「ナギールさん。本当にありがとうございます」
「ナギールさん。わたしからも言わせてください。ありがとうございます」
 そう言い、三人はおれの手の上に手を重ねると、何かをのせた。ゆっくり開くとそこにはエルケス、ルゥ、ウィルの顔が描かれた駒があった。
「えっへへ。兄ちゃんの力になれるなら、いつでも呼んでくれよな」
「ぼくたちも恩返しをさせていただきますので」
「いつでも呼んでね!」
 おれはありがとうと言い、村の人たち全員から「ありがとう! また来てね」という声に振り替えることなく試練の門のある場所まで歩いた。きっと、きっとまた会えると信じ、おれは頬を伝うなにかには反応せず、ただまっすぐに門へと進んだ。
 これは後日談だが、古代竜バハムートを倒したということでエルケスは村の英雄になったという話を聞いた。これで晴れてエルケスは英雄になれたのだと、こっちまで嬉しくなる出来事にまたエルケスに会いたいという思いが一層強くなった。なにか困ったときがきたら、頼らせて貰うらからな……相棒(エルケス)
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