冒険者ギルド

文字数 2,413文字

 わたしはどうしたらいいか迷っていた。わたしもどこかへ行って手伝った方がいいのか、それとも残った方がいいのか……。そうこうしているうちに、あいつやナギール、ティミルはそれぞれ守りたい場所へと向かっていった。残ったわたしと他の冒険者もどうしていいか迷っていると、どこからともなく大きな声が聞こえた。
「はぁ~、まぁったく情けないねぇ」
 振り返ると、そこにはさっきまで食事の支度をしていた……えっと、名前は……なんだったけか。
「ん? あたしの名前かい? そんなもんどうでもいいさね。ここでは食堂のおばちゃんで通ってるんだ。それで十分だろ?」
 しょ……食堂のおばちゃん。って、いかんいかん。一般の人は危ないから外に出てはいけないと注意をすると、おばちゃんはわたしを見てにこっと笑った。
「アメリア。あんた、何を守りたいんだい?」
 ま、守りたい……もの? いきなりそんな質問をされて、わたしはええとと考えているとおばちゃんは豪快に笑いながら、わたしの肩を叩いた。
「そんなに難しいことじゃないさ。あんたが失くしたくないものっていえばわかりやすいかね。あたしはね、ここにいるみんなの帰る場所を失くしたくないんだよ。帰ってくる場所がないっていうのはとても辛いことなんだよ。だから、あたしはみんなの帰る場所を何としても守って見せる。そのためには戦うことだって覚悟の上さ」
 そう言っておばちゃんはエプロンからデッキを取り出し、歯を見せながら笑った。お、おばちゃん……あなたも……戦えるのですか?
「そうとも。といっても、あたしは前線ではなく後援型なもんでね。士気を上げることに関しては任せて欲しいね。特に……神属性なら得意なんだよ。そんで、アメリア。あんたの守りたいものは決まったかい?」
 おばちゃんにそう言われ、わたしはもう一度自分に問いかけた。何が好きでここに来たか、何が好きでここを任されたか。そして、誰が好きでここにいるのか……その答えを見つけたとき、わたしはギルド内にいる冒険者に声を張った。
 
ここにいる冒険者に告ぐ。今より防衛線に突入する。神属性が得意なものは残り、竜属性が得意なものはナギール、魔属性が得意なものはティミルの元へ向かうのだ。ここの指揮はわたしとしょ……食堂のおばちゃんで執る。前衛は機械人形を迎え撃ち、後衛は前衛に士気を送るのだ! わかったものから配置につけ!!
 
 するとさっきまでおろおろしていた冒険者の顔にやる気が漲り、各自得意な属性の防衛先へと向かっていった。攻撃が得意なものは率先して機械人形と交戦し、補助が得意なものは前衛に対して士気を向上させる能力を展開させていた。
「ふふん。アメリア、あんたもできるね。たった一声でここにいるみんなを動かしちゃうんだもん。あたしにはできないね」
 またまたご謙遜をと言いかけると、おばちゃんの目つきが普段の優しいものから守るものの目に変わった。
「さぁ、いっちょ頑張りますか。アメリア、指揮を頼んだよ」
 わたしは頷き、ギルドの外へと出て状況を確認してから前衛はそのまま交戦、後衛は代わる代わる士気を向上させる能力を使っていくよう指示をした。
「さぁ、出番だよ。出ておいで、アペフチカムイ、キムンカムイ!」
「助けが必要かい?」
「ん? ここはどこだべ?」
 おばちゃんが呼んだのは雪のように白い髪に民族衣装を纏った女性だった。その女性は身の丈ほどもある剣を掲げると、足元に炎を起こし舞った。そしてその炎を見て喜んでいる熊の毛皮を被った少女。その少女も嬉しそうに踊ると、前衛から嬉しい声が聞こえてきた。この二人の能力は士気を向上させる効果があるということか……。さらに民族衣装を纏った女性は炎の勢いを増幅させながら祈り始めた。その勢いは冒険者ギルドを包み込んでしまいそうなほどで、わたしは焦ってその女性に辞めてもらうようお願いをすると、女性は「安心して」とだけ言いわたしを見た。
 女性が炎に祈りを込めると、その炎はさらに大きくなりやがて冒険者ギルドをすっぽりと覆った。燃えてしまわないか心配をしたが、試しにわたしがその炎に手をかざしても熱さは感じず、むしろ柔らかいお日様のような温もりさえ感じた。
「炎ってのはね、何も燃やすだけじゃないんだ。温めたり、闇に光を灯したりすることだってできるのさ。そしてその光はみんなの希望になるのさ!」
 女性が手を大きく広げるとそれに合わせて炎も大きくなり、冒険者ギルドに侵入しようとする機械人形を容赦なく焼き尽くしていった。
「みんな、頑張るべー!」
 少女の幼い声はみんなの心に届き、益々士気を向上させ機会人形を次々とやっつけていった。炎を操る女性もそうだが、こんな幼い少女の踊りにも士気を向上させるものがあるのかと改めて感心していると、わたしの目の前に炎をすり抜けてきた機会人形が迫ってきた。
「させないよ!」
 機械人形がわたしに攻撃をするよりも早く、おばちゃんが繰り出した妖精の弓兵の攻撃が当たり機械人形は無機物な音を立てて動かなくなった。
「ちょっと激しくなってきたかね。でも、ここでへばるわけにはいかないんでね」
 おばちゃんはさらにやる気を見せ、士気を向上させる合間に攻撃を仕掛けたりとまるで過去に戦っていたのかと思うくらいの戦いぶりだった。その判断も早く、一手二手先を読んで行動していて攻守バランスが取れていた。いざとなったら前衛にも出れるくらいの猛攻撃にわたしは何も口出しができないでいた。
「こっちは大丈夫だから、あんたは前衛で指揮を。こっちはあたしでなんとかするから」
 ……うん。わたしはおばちゃんに頷き、前衛が戦っているところまで駆けた。わたしだって、ここにいるみんなを守りたい。この世界を守りたい。その思いは、ここにいるみんなときっと同じだ。だから……わたしもできる限り戦う!!

 さぁ、みんな。力を合わせて戦うときだ! いけーーーーーっ!!!!
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