ロビー 第一階層

文字数 1,183文字

 塔の内部は少しひんやりとしていて、天井が高いせいかぼくの声が反響して聞こえた。どのくらい先まで見えるのかと思い、天を仰ぐと、さっき入口で見た石材と同じものと思われる立方体が宙に浮いていた。すると、どこからともなく同じ大きさの立方体が静かに近付きコーンという音を立てて衝突した。その音は、深い深い洞窟の中で育まれた石のつららから長い時間をかけてようやく落ちてきた雫が水面に触れたときの音に感じた。
 それ以外に気になるものはというと、上層部へと向かう階段のほか何もなかった。いや、あるにはある。けど、ロビーの片隅に無色透明の大きな水晶のようなものがぽつんと置かれていた。触れても何も起こらず、用途は不明だけど現時点では無害だということはわかった。それ以外に何か気になるものもなく、ぼくはデッキを持つ手に力を込めながら階段を一段一段上っていった。聞こえるのはぼくの呼吸音と、靴の反響音だけというのがこの建物の不気味さを際立たせていった。

 階段を上り終えた先には無機質な扉があった。ぼくが手を触れようとすると、それは自動で開きぼくを招き入れた。恐る恐る中へと入ると扉はしぼむようになくなり、退路を断たれた。そして目の前にあるのは、ぼくたちの行く手を阻んでいたあの機械人形だった。その機械人形が甲高い音を出しながら発光すると、ぼくの見知った人物へと成り替わった。
「博学多才! メーティスに知らないことはないのです! ね? とんすけ?」
「ぶっひ!!」
 なんと一番最初、ギルド内にてパートナーを決めるときに見た活発な少女─メーティスへと変わった。なんてこんなところにメーティスが……と考えていると、ふとアメリアさんが言っていたことが頭をよぎった。

─あそこの中に出てくるやつは、本人であって本人でない。

 つまり、あそこにいるメーティスは

ということ……なのだろうか。でも、声も姿も、そして相棒のとんすけまでもが一緒というのに本人ではないというのは……にわかには信じられないけど、ここはやるしかない。ぼくはデッキから無作為に一枚抜き取り、メーティスに向かって投げた。
「逃がさないぞ☆」
 うさぎのフードを被った可愛らしい少女が握っていたものは、その可愛さに反比例した禍々しい棘付きの鉄球だった。満面の笑顔のままその鉄球をメーティスに振り下ろすと、ぎりぎりのところで交わしたつもりだったのか間に合わず鉄球の余波に巻き込まれぐるぐると後ろに転がっていった。
「く……悔しい……なのです……」
「ぶっひぃ……」
 余波の衝撃が強すぎたのか、メーティスととんすけは目を回しながら床に伏せるとやがて光の球体となり消えていった。消えたと同時にメーティスが立っていた場所の背後から扉が現れ、その先には階段が続いていた。ぼくは辺りを警戒しつつ扉を抜け、次の階層へと向かった。
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