幕間

文字数 2,956文字

 光が収束して消えていくのと同時に見慣れた景色が現れた。目の前には冷たい石壁、そしてぼくの両隣にはさっき同時に試練の扉を潜った二人─ナギールとティミルが立っていた。二人の顔を見れば試練の結果は言うまでもなかった。二人は力強く頷き、再会を喜んだ。
「よかった。あなたも成功したのね」
「おう。お前も無事でよかったぜ」
 こうして再会を喜んでいると、上の方から慌ただしい足音が聞こえた。その足音は段々と近付いてきて、次第にその足音の主が現れた。
「あ、アメリアさん。どうしたんですか? そんなに慌てて」
「お……お前たちか……ちょうどよかった。すぐに、すぐに地上へ出てくれ。大変なんだ!」
 余程のことでは動じないアメリア教官がここまで慌てているということは……と思い、ぼくたちは階段を駆け上がり、地上を目指した。

「こ……これは……一体どうしてこんなことに」
「ちょっと! あれ、あの建物から出てきてない?」
 地上に出てまず目にしたのは、あちこちで家屋や森が燃やされている光景だった。そして、その元凶と思われるものが、あの建物から次々と飛来してきていた。最初は豆粒よりも小さいものが、段々と近付いてくるにつれて今までに見たことのない機械人形のようなものへとなっていった。
「アメリア教官。これは一体……」
「わたしにもよくわからん。つい、つい今しがた。あの建物から耳を突くような音が出たんだ。そしてそのあとだ。あのような異形のものたちが空を覆い、あちこちを襲撃したのは。それで、急いで地下へと下りて行ったら、お前たちがちょうど試練を終えていた……というわけだ」
 ぼくたちが試練を終えて、あの機械人形のようなものが出てきたのはほぼ同時ということ。けど、なんでだろうとぼくはしばらく考えたのち、ひとつの答えへと辿り着いた。
「なにか思い当たることがあるのか?」
 ナギールがぼくの顔を見て、ぼくはそれに小さく頷いた。もしかしたらかもしれないと前置きをしてから、ぼくは神の試練で戦ったゼウスからの言葉を思い出した。

 ゼウスの話を要約するとこうだ。建物の名前は「白の塔」と呼ばれていて、神々が管理をしていた。管理というのは、塔の内部に封じ込めてあるある

が目を覚まさないようにすること。その少女の名前はフェリヤ。かつてこのオセロニア界を無邪気という名の力で壊滅状態にしてしまった。そこで、神属性からはゼウス、魔属性からはハデス、竜属性からはバハムートの力を用いてフェリヤを封印し、眠りにつかせることに成功した。
 一口に眠りにつかせたと言っても、実際はそう簡単ではなかったとゼウスは苦い顔をしていた。フェリヤの力の源は「好奇心」という純粋な気持ちのみで、一見すれば暴れているように見える行動もフェリヤからすれば「遊んでいる」ということにしかすぎない。それ故に、今まで外の世界を知らない彼女からすれば目に映るもの全てが新鮮で好奇心を抑えることができなくなり、更に暴れる。このままではこの世界そのものが危ういと感じたゼウスは、冥界の王ハデスと古代竜の王バハムートの力で

眠らせることができたという。被害も尋常ではなく、地上のみならず冥界にも及びしばらくは全ての世界で復興作業が行われた。
 話の途中でゼウスが首を傾げていた。いつからフェリヤがいたのか。前からいたのか突然現れたのかは不明で、永年神の世界を統治していてもわからないと残念そうな顔をしていた。

 そして、ぼくがあの建物が現れたというとゼウスの顔から血の気が引いた。一刻も早くフェリヤを大人しくさせないと世界存亡の危機とおっかない顔で言われ、ぼくは急いで元の世界に戻ってきたという訳だ。その話を最後まで聞いたナギールとティミル、そしてアメリア教官の顔には「信じられない」という言葉が張り付いたような表情があった。
「もしかして、そのフェリヤっていうのが遊びたいという気持ちを出しているというのなら」
「この機械人形もその一部の可能性がありますね……急がないと!」
「でも、あの機械人形の被害もあちこち出てるんだろ? ここも放っておけねぇよ」
 今の目的は、あの塔に入って遊びたいという気持ちでいっぱいのフェリヤを落ち着かせることと、その気持ちが溢れて出てきたこの機械人形たちの処理も行わないといけない。既に被害はあちこちで報告されており、一刻の猶予もない。こうなったらまた手分けをしていくしかない……。
「よっし! なら、村はおれに任せろ!」
「じゃあ、あたしは図書館を守るわ!」
 一番最初に行動に出たのはナギールだった。ナギールは作物荒らしで困っているという依頼でお世話になった村を防衛、次にティミルは本と美術品で溢れた図書博物館を防衛すると立ち上がった。ぼくはこのギルドを……と思って口にしようとしたとき、ナギールとティミルはぼくの肩に手を置き、あの白い塔を指さしていた。
「お前は……あっちだろ」
「あなたにしかできないことだと思うの。だから……こっちは任せて」
 二人の意見に迷っていると、ぼくの袖をちょいちょいと引っ張るアズリエルに気が付く。
「……いこ?」
 アズリエルの真っ直ぐな気持ちにぼくは胸を打たれ、頷いた。そして、アズリエルに質問をした。アズリエルはこの世界が好きかと。すると、アズリエルは首を傾げながらも「だいすき」と答えてくれた。その答えにぼくは安堵し、アズリエルにひとつお願いをした。そんなに難しいことじゃない。ただ、ナギールかティミルのそばで一緒にこの世界を守って欲しいと。
「……あなたといっしょじゃなきゃやだ」
 ちょっと意地悪かなと思ったけど、アズリエルにもみんなを守れる力が備わっていること。それも、みんなの力を引き出してくれるものばかりだと。それを、ぼくだけじゃなくてこの世界を守るために使ってほしいとお願いをすると、長い沈黙のあとにこくんと小さく頷いてくれた。
「……わかった。でも、あたしからもおねがい」
 言葉にして伝えたいという気持ちはすごくよくわかった。肩を震わせアズリエルが目に涙を浮かべながら、気持ちを落ち着かせながらぼくの目を真っ直ぐに見ながら言った。
「ぜったい……ぜったい……もどってきて……やくそく……」
 アズリエルが言った約束にぼくは大きく頷いた。それを見て安心したのか、アズリエルは薄く「えへへ」と笑いながら涙を拭いた。そして、一呼吸おいてから愛用の鎌を持ち骨三郎の頭を思い切り叩いた。
「いてっ!! ……うぉおお! 燃える闘志がオレを奮い立たせるぜぇえ! 行くぞぉ!!」
 めらめらと燃えながら村へと一直線に飛んで行った骨三郎を見送りながら、アズリエルは銀色の髪に赤く燃えるリコリスの花飾りをつけた。リコリス……花言葉は確か「独立」だったかな。
竜属性の力を宿したアズリエルの姿を見たナギールとティミルは、「何があったの」と聞いてきたけど、それはまた今度。今はそれぞれの持ち場を守り抜こう。
「ほんとはもう少しゆっくりしたかったけど……これが終わったらだな」
「そうね。もうひと踏ん張りしましょうか!」
 こうして、ナギールはアズリエルと一緒に村へ、ティミルは図書博物館。ぼくはフェリヤを落ち着かせるため、白の塔へと向かった。これ以上、この世界を壊させはしない!!
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