第19話 悪魔的チェックイン

文字数 2,605文字

アーヴの街は王都の南に位置し、陸上交易の要所であり、人口も多い。

レニを加えたロイズ一行は王都を発って3日後、この街に到着していた。

……だるい。
もう歩きたくない。
一生ぶん歩いた。
あなたまで子どもになってどーするのよ!
あのなぁ……。コレだぞ、コレ。
体に抱きつくレニを差して、ロイズはぐったりする。

引き離そうとするたび彼女は驚異の身体能力でロイズの手をかわし、意地でもしがみついてくるのだ。
馬車だ馬車! こうなったら馬車を買うぞ! こんな状態で旅なんかできるか。
そんなお金、私たちにはないでしょう?
うっせーよ、元はと言えばおまえが――
そ、それは――!
……びんぼう一家。
家族じゃねーし!
家族じゃないわよ!
家族は私だけだよ!
…………。
…………。
ちなみに、旅の中でガザリアとレニは、ララミのことをこのように認識するようになっていた。

『ロイズの魔力と腹話術で動いていたぬいぐるみが、長い年月を経て自我を持ちはじめた』

――と。

つまり、ロイズはぬいぐるみ以外に友人のいない哀しい勇者なのだ……。

……ま、まあ、それはそれとして。

ともかく今日の宿を探しましょう。
野宿からの解放!

あーあ、やっとエロ勇者のエロ視線から逃れられるわ。
言いたいことはたくさんあるが――

何より、おまえの胸がでかいのが悪い。
開き直った!
ガザリアがぽかぽか殴ってくるのをかわして、街に入っていく。

すると少し進んだ広場に、王都から来たらしい兵士の一団が見えた。

??
何事かしら?
向こうもこちらに気づく。怪訝な表情だが――それは、少女をだっこして、そばにうさぎのぬいぐるみを侍らせているロイズのせいだろう。

だがそんな彼らも――

やや! これは勇者さま!
ガザリアの胸にある『勇者の称号』を見てとって、態度を改めた。
どうしたの? 随分と難しい顔をしてたみたいだけど。
はあ、それが――
少しばかり珍妙なことが起こりまして。この街からの知らせ受けて参ったのですが……どうにも我々の手にも負えず……。
なるほど――
それは仕方ありませんね! では、勇者であるこの私が力を貸してあげましょう!
おお! それは心強い!

爛々と目を輝かせるガザリアの肩に、ロイズが手をかける。

……なによ、また『厄介ごとに関わるな』とか?
まさか。

オレたちは勇者だぞ? 
たち』……?
…………。

ロイズは麦チョコを2粒とり出すと、ポンと宙に放り、

きゃっち!

ようやく胸元の邪魔者を排除した。

そ、その称号は――あなた様も勇者でしたか!
そう。オレたちは勇者だ。この国の民が――いいや、生きとし生けるものが苦しんでいるさまを見過ごすわけがない。

兵士諸君の悩み、オレたちが解決してやろう。
おお!
ありがたいお言葉!

……ん?
お連れの方々の視線が、やけにジト~~っとした目を向けているのですが?

ああ……あれはオレの言葉にむせび泣きそうなのを我慢してるんだよ。
(――ちょっと!)

ガザリアがロイズの耳を引っ張る。

(どういう風の吹き回し!?)
(おまえがいつも言ってるとおり、勇者の務めってヤツだ)
(……なにを企んでるのお兄ちゃん?)
(オレだって、たまにはイイコトをしたくなるんだぜ?)
(うそくさい)
(絶対ウラがあるわね……)
(ねぇよ。――ったく)

ロイズは兵士たちに振り向く。

それで兵士諸君、いったい何があったって言うんだ?
……こちらへ。

兵士たちに案内されるまま通りを折れ、しばらく歩いたその先に、豪華絢爛な建築物が現れた。

10階ほどの高さがあるだろうか――まるで塔だ。

あれは――?
はい、カジノです。
カ、カジノ??
おかしいわ、だって、このあいだはこんなもの無かったわよ?
ガザリアは『洗礼の儀式』に向かうため、この街を通って王都へと入っていた。そのときにはこのカジノは建っていなかった……のだと言う。
あり得ないわ。3、4日で建てられるワケが――

しっかりとした石造り。下品なほどきらびやかな装飾。かなりの財力が注ぎ込まれているらしい、立派すぎるほどの建築物だ。

だからこそ、困っているのです。
つい先日までここは、解体されたマーケットの跡地、使われていない土地だったはずなのですが……。
住民たちは皆、『気づいたとき、これは既にここにあった』……と口をそろえて言うのです。どうにもこれは人間業ではなく――
まさか、悪魔が?
確証はありませんが、恐らくは。

兵士たちが神妙な顔でうなずく。

街への影響もさることながら、まずはこの『首謀者』を押さえようと我々も動いてみたのですが――なんと言いますか、その。

どうにも歯切れが悪い。

――とにかく、一旦ここを離れましょう!
離れる? 待ちなさい、もっとよく調べないと……

一体このカジノがどのような影響を街に及ぼしているのか、兵士たちが何を恐れているのかいまいち掴めないまま、勇者一行はもとの広場まで連れ戻された。

きちんと説明しないと、手助けのしようがないでしょう?
ええ、ええ……それはその通りなのですが。
まあ待てガザリア。

そんなに兵士さんたちをイジめるもんじゃないぞ?
ロイズ……今回なんだか気持ち悪いわよ?
ははっ、そうか?

オレはいつもこんな感じだろう? 爽やかで、頼りがいがあって――
  
  
  
無言はヤメロよおまえら。

――さて兵士諸君。
は、はい。

この隊のリーダーらしき男が、ロイズの言葉を受けてうなずく。

まだ依頼内容が判然としないが――ここはオレたちに任せてもらおうか。

勇者のオレと、その従順な部下どもが見事に解決してみせよう。
おお……!

い、いや、睨んでますけど部下のみなさん?

気のせいだろう。

それよりも――だ。
オレは国王様からもらった1000Gを、世間の荒波に呑み込まれ困っていた人間を救うために、すべて使い果たしちまってな……。
なんと……!
う、ぐぐぐ……。
つまり今、すっからかんの金欠なわけだ。あの謎カジノはどうにかしてやるから、先に最高級の宿と食事を手配しろ。

あ、オレの部屋はスイートルームな!

さあダッシュ!
は、はいっ!
おい、おまえたち――!

隊長の男が部下に指示して街の宿へ走らせる。その様子を見て満足そうなロイズの背後で、仲間たちがささやく。

やっぱりウラがあったじゃない……!
しょっけんらんよう。
よかった、いつものお兄ちゃんだ……。
はっはっは、これで今夜は豪遊だ! いや、この勢いで1週間くらい滞在してやろうかな!
(だ、大丈夫だろうかこの人たち……)

凸凹勇者パーティーに、一抹の不安が胸をよぎる隊長なのであった。

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登場人物紹介

ロイズ

不労所得をこよなく愛する悪魔。今は仕方なく勤め人に身をやつしている。
属性:怠惰

ララミ

ロイズの妹。非悪魔的思考をつかさどる悪魔。兄とは正反対で品行方正。
属性:色欲

ララミ(人間界バージョン)

非悪魔的なルックスで兄を困らせる。
そうび:出刃包丁

ガザリア

ロイズとともに選ばれた勇者の1人で、旧王家の末裔。驚異の胸囲を持つ17歳。
属性:傲慢

レニ

すえは大魔法使いとウワサされる少女。誰がウワサしているのかは知らない。実は人肌が恋しくて仕方がない。
属性:暴食

シェリー

ロイズの上司。悪魔的勤勉さでもって、若くして管理職にのし上がった有能な悪魔。
属性:強欲

魔王

部下を地獄の業火で焼き尽くすのが趣味。でも夜はM。
属性:??

ゴラザイアス

魔王の秘書。低級モンスターだが、その爪は一撃で人間の頭部を砕くことができる。しかし背が低いので頭部に届いたことはない。

使い魔(ヘビ)

残業が好き。

シノゥ

エルフ族の勇者。もと踊り子らしいが……?

属性:??

エンディ・ローンズ

もとトレジャーハンター。たぶん蛇とか苦手。

奥太郎

健全なオーク。同族からは知能派美男子と呼ばれる人気者。じつは簿記2級のスゴ腕。

カイト

温泉街のアルバイター。人を探している。

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