第19話 悪魔的チェックイン
文字数 2,605文字
アーヴの街は王都の南に位置し、陸上交易の要所であり、人口も多い。
レニを加えたロイズ一行は王都を発って3日後、この街に到着していた。
体に抱きつくレニを差して、ロイズはぐったりする。
引き離そうとするたび彼女は驚異の身体能力でロイズの手をかわし、意地でもしがみついてくるのだ。
ちなみに、旅の中でガザリアとレニは、ララミのことをこのように認識するようになっていた。
『ロイズの魔力と腹話術で動いていたぬいぐるみが、長い年月を経て自我を持ちはじめた』
――と。
つまり、ロイズはぬいぐるみ以外に友人のいない哀しい勇者なのだ……。
ガザリアがぽかぽか殴ってくるのをかわして、街に入っていく。
すると少し進んだ広場に、王都から来たらしい兵士の一団が見えた。
向こうもこちらに気づく。怪訝な表情だが――それは、少女をだっこして、そばにうさぎのぬいぐるみを侍らせているロイズのせいだろう。
だがそんな彼らも――
ガザリアの胸にある『勇者の称号』を見てとって、態度を改めた。
爛々と目を輝かせるガザリアの肩に、ロイズが手をかける。
ロイズは麦チョコを2粒とり出すと、ポンと宙に放り、
ようやく胸元の邪魔者を排除した。
ガザリアがロイズの耳を引っ張る。
ロイズは兵士たちに振り向く。
兵士たちに案内されるまま通りを折れ、しばらく歩いたその先に、豪華絢爛な建築物が現れた。
10階ほどの高さがあるだろうか――まるで塔だ。
ガザリアは『洗礼の儀式』に向かうため、この街を通って王都へと入っていた。そのときにはこのカジノは建っていなかった……のだと言う。
しっかりとした石造り。下品なほどきらびやかな装飾。かなりの財力が注ぎ込まれているらしい、立派すぎるほどの建築物だ。
兵士たちが神妙な顔でうなずく。
どうにも歯切れが悪い。
一体このカジノがどのような影響を街に及ぼしているのか、兵士たちが何を恐れているのかいまいち掴めないまま、勇者一行はもとの広場まで連れ戻された。
この隊のリーダーらしき男が、ロイズの言葉を受けてうなずく。
隊長の男が部下に指示して街の宿へ走らせる。その様子を見て満足そうなロイズの背後で、仲間たちがささやく。
凸凹勇者パーティーに、一抹の不安が胸をよぎる隊長なのであった。