第8話 悪魔的小箱

文字数 1,280文字

銀メッキの鎧を回収されたガザリアは、下着姿でレンタルショップの隅にうずくまる。
うう……。
――と、ロイズは彼女の隣に転がる、小さな箱に気づいた。
金属製の、片手で掴める程度の直方体だ。
なんだ……?

どこかで見覚えのある形をしている。
これは……我が家に伝わるお守りで――
はっ!
どうしたの、お兄ちゃん?
――おい、ガザリア。服が欲しいか?
ふ、服……?
欲しい。服欲しい……。
分かった。不足分はオレが出してやる。
代わりにコレを譲ってくれ。
え? でも……
『お守り』を譲ることに迷いを見せるガザリアだったが、迷った末、小さくうなずいた。
よし。
おい店主! 気が変わった。不足分はオレが出す。
ほう……。

んんん? ちょっと待っておくれよ。
おやおや! この鎧、『勇者の称号』が胸に付けられてあるじゃないか。

参ったなぁ、一度返してもらった以上、この鎧の所有権はウチにあるわけだし――いやぁこいつは参った! 1500Gじゃ足りないかもなぁ!
……こいつ!
後ろではガザリアが青ざめている。
――ちっ。
いいだろう、合わせて2000G! これでどうだ!
はいよ、毎度あり!
ガザリアの剣と服、それから勇者の称号を取り戻して、ロイズは店を出た。
……あの店主め。この街に戻ってきたら最初にあいつを滅ぼしてやる……。

でもお兄ちゃん、どうして急に心変わりしたの? その箱って――
ああ……!
よく見ろララミ、これはな!
筐体の側面には、小さなつまみがある。
ロイズがそのつまみを動かすと――
そう! これはポケット悪魔Wi-Fiだ!
これで悪魔スマホが使えるぞ!
そ、そのために全財産を……?
はっはっは! これはいいものだ!
タダ! タダで悪魔スマホが使えるぞ!
…………。
――ところで。
こいつはどうにかならないのか?
うう、ひっく、えぐ……。
泣きじゃくるガザリアが、ロイズの服をつまんだまま、後ろをついてくる。
仕方ないよ、あんな目に遭わされた後だから、心細いんだよ……。
なんだよ下着くらい。減るもんじゃないだろ。
お兄ちゃんてば、デリカシーないなぁ。
ララミだって、自分の部屋じゃ、ちょくちょく下着姿だったろ?

ええっ!? 違うよ、そんなことないよ!?
だってたまに――
♪~~
――って、鼻歌うたってただろ?
あの上機嫌ぶりは、風呂上がりに下着でいた証拠だ。おそらくブラなし。
な、なんで分かるの!?
妹への愛だ。
そんなところで愛を使って欲しくなかった!
……おーいガザリア、そろそろ離せよ。スマホがしにくいだろうが。

うぐ、ひっく……。
おまえも勇者だろ? いつまでもそんな醜態をさらしてていいのか?
…………。
第一、なんであんな虚勢を? もしかしてニセモノなのか?

勇者に成りすまして恩恵にだけあやかろうとか……もしそうだとしたら最低だな。悪魔だな!
自分の棚上げ具合がひどい……。
勇者……ニセモノ……。
ふいにガザリアの瞳に力強さが戻る。ぱっと飛び退いて、
ふ、あはははは!そんなワケないでしょう?

私は紛れもない勇者!
そして正当なる王家の後継者!
急に元気になったね……。
ララミ、よく見ておけ。これが人間のカラ元気というやつだ。
か、カラ元気じゃないわよ!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ロイズ

不労所得をこよなく愛する悪魔。今は仕方なく勤め人に身をやつしている。
属性:怠惰

ララミ

ロイズの妹。非悪魔的思考をつかさどる悪魔。兄とは正反対で品行方正。
属性:色欲

ララミ(人間界バージョン)

非悪魔的なルックスで兄を困らせる。
そうび:出刃包丁

ガザリア

ロイズとともに選ばれた勇者の1人で、旧王家の末裔。驚異の胸囲を持つ17歳。
属性:傲慢

レニ

すえは大魔法使いとウワサされる少女。誰がウワサしているのかは知らない。実は人肌が恋しくて仕方がない。
属性:暴食

シェリー

ロイズの上司。悪魔的勤勉さでもって、若くして管理職にのし上がった有能な悪魔。
属性:強欲

魔王

部下を地獄の業火で焼き尽くすのが趣味。でも夜はM。
属性:??

ゴラザイアス

魔王の秘書。低級モンスターだが、その爪は一撃で人間の頭部を砕くことができる。しかし背が低いので頭部に届いたことはない。

使い魔(ヘビ)

残業が好き。

シノゥ

エルフ族の勇者。もと踊り子らしいが……?

属性:??

エンディ・ローンズ

もとトレジャーハンター。たぶん蛇とか苦手。

奥太郎

健全なオーク。同族からは知能派美男子と呼ばれる人気者。じつは簿記2級のスゴ腕。

カイト

温泉街のアルバイター。人を探している。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色