第47話 悪魔的隠匿

文字数 2,017文字

あれ……お兄ちゃん、あの人こっちに来るよ?
 
オレに気づいたか?
同じ勇者だし、あいさつとか? 綺麗な人だね――ってうわぁっ!!
ふが、ふご……臭う、臭いますぜぇ……!
うしろから、急にっ!?
こいつオークか? こんな所にモンスターが――
ふが、ふご、ううむ、この臭いは……ブラコン女子中学生の臭い!!
うわああ、なんか怖いよ!
そこまでです。
おやめなさい、奥太郎
ひっ、シノウの姉御……


す、すみません。つい臭いに釣られて。

……姉御?
私の仲間が失礼いたしました。


あなたは、勇者のロイズ・フォークマン様、ですね?

あんたも勇者だよな?


このオークが……仲間?

はい。私はシノゥ・ルラ・アフィール。エルフ族の勇者です。そこの奥太郎とパーティーを組んで魔王城を目指しています。


正確には、仲間というより……

へ、へい。奴隷ですシノゥの姉御!!
なんだか怯えてるよ、オークの人……。
みなさんもこのワーバ遺跡に――ということは、やはり例の新発見の地下階層を調べに?
地下階層?
ベンド商会の依頼で……って、あら、これは失言でしたでしょうか。
おい、おっさん。どういうことだ?
……いやあ、はは、まいったな。
まあいいか。人選はオレに任されてるワケだしな――。
知ってると思うが、このワーバ遺跡は古代の神殿跡だ。
……神殿。
そうだ。この広場のあたりに昔は社(やしろ)があって、本丸は向こうだな。あの山だよ。
山が、神殿?
山に見えるが、正確には石積みの神殿さ。今じゃあすっかり木や草に覆われちまってるけどな。

あの馬鹿でかい神殿の中で神さまをまつってた。

んで、神殿つくった部族もほろびちまって、時が経ってオレたちトレジャーハンターの出番だったってわけだ。


遺跡の中にあったお宝を掘り起こしちまって、運び出しちまって――そういう意味での価値はなくなった。


所有も国王のモノになって、このまま放置しておいてももったいねぇだろうってことで……

このふざけた巨大迷路とかいう企画か?
まあな。だがこれでも結構好評なんだぜ? ベンド商会にとっては美味しい商売になってる。


ただ、ごく最近のことなんだが、この遺跡には続きがあることが判明した。

続き……。
続きっていうのはオレたち視点だが……本丸から見れば手前だな。


――ここだ。この広場の地下に、未探索のエリアが見つかった。

巨大迷路の準備中、そそっかしいスタッフが片栗粉の入った容器をぶちまけちまってな。そんで、「ああもったいねぇ、片付けねぇと」ってやってると、その片栗粉がわずかに風に吹かれていた――


――あらぬ方向から、つまりは下から。


地面のごく細いすき間から、風が吹き出ていることに気づいた。よくよく調べてみると、どうやら地下に巨大な空間があるらしい。


こりゃ大変だってことで、すでにコーディネーターとして協力関係にあったオレに、この地下探索の役目が回ってきたってわけだ。

私はエンディさんとは別ルートで、ベンド商会からお誘いを受けまして。地下探索に協力しろと。
未知の遺跡、本物のお宝さがし……お兄ちゃん、私たちタイミングよかったんじゃない? もしかしたらガザリアさんも……
――釈然としねーな。
え?
地下に新しい可能性を発見した。一方で、この馬鹿げたイベントは継続。


ベンド商会ってのは何を考えてるんだ?……まさか『報告』してないってことはないよな、エンディのおっさん。

くくっ。勘のいい兄ちゃんだねぇ、気に入ったよ。
?? どういうこと?
こいつらは遺跡の管理を任されてるだけだろ。もうしぼりカスになったはず、こうして見世物のイベントを催すくらいしか有効な使い道のない遺跡――


だが、そこで思わぬ発見があったのに……

王様に、報告してない?
そうすりゃイベントの収益はそのまま、偶然見つけたお宝もふところに……ってな。
ひとりじめ。ずるい。
おいおいお嬢ちゃんたち、そんな目で睨むなよ。オレはただの雇われハンターだ。未知のダンジョンに挑んで、お宝をゲットする。その過程にこそ悦びを見いだしてるんだよ、オレは。


ベンド商会が少々仁義にもとっていようと……ま、そんなのは関係ねーやな。

で、それなりに大仕事になりそうだからな、戦力は多いほうがいい。あんたも……勇者なんだろ? それなりの実力はあるんだろうよ。


どうだい、オレたちと手を組まないか?

――金を稼ぐなら、もっと簡単な方法がある。
ほう?
国王にチクるのさ。んで、ちょいと報奨金でも弾んでもらう。それでオレは楽して稼げるってわけだ。
はは、小悪党みてーな勇者さんだな。


まあオレはそれでもいいさ。国王とベンド商会のあいだに亀裂が走ろうと、別に知ったこっちゃねぇ。


あんたが密告して、それから国王軍が到着するまでそれなりに時間があるだろうしな。この地下探索が終わる頃には、きれいさっぱりとここを去ればいいだけだ。

じゃあ決まりだな。
え、ちょっとお兄ちゃん、ガザリアさんは――
そうですよ――
シノゥ、さん?
いいんですか?


お仲間のガザリアさんを放っておいて――

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登場人物紹介

ロイズ

不労所得をこよなく愛する悪魔。今は仕方なく勤め人に身をやつしている。
属性:怠惰

ララミ

ロイズの妹。非悪魔的思考をつかさどる悪魔。兄とは正反対で品行方正。
属性:色欲

ララミ(人間界バージョン)

非悪魔的なルックスで兄を困らせる。
そうび:出刃包丁

ガザリア

ロイズとともに選ばれた勇者の1人で、旧王家の末裔。驚異の胸囲を持つ17歳。
属性:傲慢

レニ

すえは大魔法使いとウワサされる少女。誰がウワサしているのかは知らない。実は人肌が恋しくて仕方がない。
属性:暴食

シェリー

ロイズの上司。悪魔的勤勉さでもって、若くして管理職にのし上がった有能な悪魔。
属性:強欲

魔王

部下を地獄の業火で焼き尽くすのが趣味。でも夜はM。
属性:??

ゴラザイアス

魔王の秘書。低級モンスターだが、その爪は一撃で人間の頭部を砕くことができる。しかし背が低いので頭部に届いたことはない。

使い魔(ヘビ)

残業が好き。

シノゥ

エルフ族の勇者。もと踊り子らしいが……?

属性:??

エンディ・ローンズ

もとトレジャーハンター。たぶん蛇とか苦手。

奥太郎

健全なオーク。同族からは知能派美男子と呼ばれる人気者。じつは簿記2級のスゴ腕。

カイト

温泉街のアルバイター。人を探している。

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