第37話 悪魔的最期
文字数 1,850文字
正気を取り戻したカジノの客たちは予想通りのパニック状態で、避難誘導も困難を極めていた。
この4FはVIP客ばかり――落ち着いた紳士淑女のたぐいが多いとはいえ、緊急時にあっては、さすがに平常心とはいかないらしい。
ロイズは人間の姿に戻っていた。住民の前に姿をさらすにあたって、悪魔そのものの姿では余計混乱を招くだけである。
彼の視線の先には、我先にと出口に殺到するVIPフロアの客――
人混みを掻き分ける乱暴な腕。その、ほとんどモンスターのような外見のおっさんへと、ロイズは指先を向ける。
指先から放たれたコインほどの大きさの黒渦が、必死な形相の男のこめかみに、ぴとりと接着する。
しょんぼり小さくなって、男は大人しくガザリアの誘導に従いだした。
ロイズはきびすを返すと、下の階へと続く階段へと駆けだした。
レニがスロット台の脇から姿を現す。片手に老婆を抱え、背中には目を回した成人男性を背負っている。
ガザリアは4Fを隅々まで走り回り、逃げ遅れがいないことを確認する。
その間にも崩壊は酷くなる一方で、もはや真っ直ぐ立つことすら難しいほどだった。急がねばならない。
壁際のバーカウンターの下に、小さな影を見つけた。
ガザリアの差し伸べた手を、少女がおずおずと握ったそのとき、
二人の直上で天井が大きく崩れ、その巨大な残骸がまっすぐに落ちてくる!
ガザリアが少女をかばって抱いたその直後、
ララミを背に乗せたガーゴイルが、その巨大な羽を広げて飛来し、崩落する残骸の横合いへと突進した。
岩塊は砕けちり、少女を抱いてうずくまるガザリアに破片が降り注ぐ。
床を砕き、拳を突きあげたレニが飛び出してくる!
これはあれだ、昇竜拳のすごいやつだ!
目の前にあった、自分の3倍はあろうかという岩塊を両手で持ちあげ、レニは壁へと向き直る。
震えていた少女を叱咤し、立ち上がらせる。
しかしそれと同時――床が大きく波打ち、崩れる。
ガザリアが放り投げた少女の体を、上空でガーゴイルがキャッチする。
脱出するガーゴイルの背でララミは、岩の雪崩に消えていくガザリアと、彼女を守ろうとするレニの姿をその目に映しながらも、ただ叫ぶしかできなかった。