第９話 悪魔的告白
文字数 1,475文字
いいこと？ 私はあなたたち平凡な勇者とは違うのよ！
往来のど真ん中でガザリアは胸を張る。
そりゃあな。
街のレンタルショップで身ぐるみ剥がされる人間なんて、平凡じゃないよな。
うぐ……！
オレが立ち会ってなければ、勇者どころかただの下着女だったわけだが？
ううう……。
あ、ありがとうございます……。
ふん、分かればよろしい。
んで？ 一応聞いてやるけど？
正当な王家がどうこう言ってたな。あれも虚言か？
――いいえ、真実よ。
私の一族はかつてこの国を治めていた。それはもう素晴らしい統治だったのよ。
私の名はガザリア・クレイヴ。
――しかしそれは、現政権をあざむく仮の名前！
真の名はガザリア・ソリッシュ！
かのソリッシュ王家の末裔よ！
（ソリッシュ？……知ってるか？）
（うん、中学の人間史で習ったよ。
悪辣の限りを尽くしたソリッシュ王家を、今の王家であるトゥーレン家が打倒した……みたいな。だから、ソリッシュ王家は短命で、たった二代しか続かなかったんだよ。
わずかに生き延びたソリッシュ家は、地位も財産も失って、どこかでひっそりと暮らしてる――って話だったかな）
（ふうん……最近の悪魔義務教育では、人間史までやるんだな）
（お兄ちゃんの頃からあったと思うけど……）
かつてこの国を飢饉が襲ったとき、当時のソリッシュ王はこう言ったわ。
『パンがなければフランスパンを囓（かじ）ればええやんけ』
――とね！
フランス？ なんだそりゃ？
こういうのもあったわ。
『パンがなければフランスパンでどつき回していてこましたるぞワレェ！』
?? どういう意味だ？
さあ？ 私も寝物語に聞いただけだし。
でもきっとすごいことをしたのよ！
そうに違いないわ！
…………。
だから私はソリッシュ家の復興をかけて勇者に名乗り出たの！ 身分は隠してね！
ふふふ、魔王を倒して英雄になったら、憎きトゥーレン家を滅ぼして、私が女王に返り咲いてみせるわ！
（マジか、オレと目的だだカブリじゃねぇかよ。
……いや、むしろ都合がいいか？）
ろくに金もないくせに、見栄を張った理由は？
だって……！
あのひげ面！
← あいつよあいつ！ ニセモノの王様！
あの仇敵の前に立つのよ!?
みすぼらしい服装じゃ格好がつかないでしょ！
まあ、その無駄な虚勢のせいでお前は下着にまで落ちたわけだがな。
う、うぐぐ……。
――よし、ガザリア。
２つ、質問がある。
まずお前、強いのか？
は？ 当たり前でしょう、私は勇者よ！ まあ、魔法は微妙だけど……剣の腕には自信があるわ。王家に伝わる由緒正しき剣の使い手よ。
……そうだな、３０Gの剣で勇者にまで選ばれたんだ、腕もそれなりなんだろう。
じゃあ２つめの質問――いや、これは命令だな。
？ なによ、命令って。
お前、オレと結婚しろ。
なっ……???
え、ええええーーーーー！！？
ガザリアが驚くより先に、ララミが肩口で騒ぎ出す。
（何を考えてるのお兄ちゃん！ とうとうおかしくなったの？ ううん、おかしいのはずっと昔からだけど！）
（さりげなくディスるなよ）
（いやほら、オレたちの報酬は、無税と家賃、それからオレの嫁だろ？）
（そ、それは、シェリーさんが勝手に言ってたことで……）
（嫁……そう、３次元の嫁。
オレのために金を稼いでくれて、家事をしてくれて、その他もろもろ便利に使える嫁が欲しい）
（なんというヒモ悪魔……！
っていうか、お兄ちゃんの世話なら私がいるじゃない！ わ、私は、お兄ちゃんさえよければずっと――）
（は？ もちろんオレは、嫁と妹の２人から面倒を見てもらうつもりだが？）
（うっひゃあ！ さすがお兄ちゃん悪魔的ぃーー!!!!）
※ララミは混乱している。
