第25話 悪魔的過去②
文字数 1,431文字
ど、どういうことですか……天使？ しょうてん？
――ご両親は、それはとても真面目な働きっぷりでした。
魔王城からの使者は続ける。
定時出社に定時退社、残業はほどほど。何よりご家族と過ごす時間を大切にしてらっしゃって、夫婦それぞれ育児休暇などの制度をフル活用――年休の取得率も魔王城トップ。もちろん、欠勤や遅刻などもってのほか。
…………。
しかし、そのあまりにも非悪魔的な働き方から、神に目を付けられてしまったのです……！
か、神さま……
そして今日、あのにっくき男は魔王城に突然あらわれて――
『YOUたち！ 天使になっちゃいなよ！』
と、有無を言わさずヘッドハンティングを……。
お二人は抵抗もできず天界に連れ去られ――つまり、昇天なさったのです。
そ、そんな――！
ぼくたちを置いて!?
ヒラ悪魔では、あの魔力に逆らうことなど出来ませんからね……。
じゃ、じゃあぼくも行く！
ぼくも良い子で過ごして、ララミを連れて天界に！
滅多なことを言うものではありません。ロイズ君――悪魔が天使を目指すなど、愚の骨頂。
いいですか、我々は悪魔ですが――鬼ではありません。当面、君たち兄妹の生活は保障されます。ご両親の保険金と、魔王城からの遺族年金でね。
だから……大人しくしていることです。『天使を目指す』など、そんな恐ろしい。
で、でも……！ 天使には、天使になれないと会えないんでしょう!?
気取り屋の彼らですからね――滅多に天界から降りてくることはないでしょう。
……それこそ我々が――魔王様が人間を滅ぼそうと本腰を入れれば、話は別かもしれませんが。
…………。
それに、仮に君が天使を目指し、うまく目に止まったとしましょう。
……しかし、妹さんを連れて行ける保証など、どこにもないのですよ？
小さい妹さんを独りにするつもりですか？
そ、それは……。
……ど、どうすればいいんですか。ぼくは――
そうですね、長らく悪魔人事課で務めた私に言わせるならば――
君は、生活態度を改めるべきです。
せいかつたいど……？
朝は何時に起きていますか？
え、６時半……。
いけません。８時に起きなさい。
遅刻しちゃうよ！
それでいいのです。
……宿題はきちんとしていますか？
当たり前だよ！
前の日にちゃんと――
破り捨てなさい。宿題のプリントなどゴミです、ゴミ。
おべんきょうがんばらないと、立派な悪魔になれないって――
いいえ、なれます。
君はご両親を目標にがんばっているのでしょうけれど、まずはその妄想を捨てるべきです。そのままでは、天使への道まっしぐらです。
う、うう……。
ぼくが天使にスカウトされたら……ララミは、一人。
そのとおりです！ なるべく悪魔的に過ごしなさい。悪魔として悪魔のように振る舞い、妹さんを守るのです。
いいですか、『悪魔的は作れる』のです！
そ、そんな、『カワイイは作れる』みたいに――。
遅刻欠席なんのその！ 宿題なんてゴミクズだ！
――はい復唱！
ち、遅刻欠席なんのその……宿題なんてゴミクズだ……。
天才は99％のひらめきと、0.01％の努力！ あとは知らん！
て、天才は0.01％の努力……。
働かずに遊んでいたい！
は、働かずに遊びたい……！
むしろ遊ぶのすら面倒くさい！
ダラダラしてたい！
ダラダラしてたい……！
俺は悪魔的だ――！
ぼく……お、オレは悪魔的！
その意気です！
さぁ、その調子で妹さんを守り、悪魔的に生きてください！
は、はい！
ありがとうございます、優しいおじさん！
悪魔アパートの玄関先で、二人の悪魔は固い握手を交わして別れたのだった。
