第18話 悪魔的手法

文字数 2,568文字


あたりに注意を払いながら、ロイズたちは森を進んだ。

……はぁ、はぁ。
なんで……悪魔がこんな王都周辺に?
――さあな。

人事異動でもあったんじゃねぇか。
人事……?
(じー。)
…………。

レニからの微妙な視線。

意識が飛びかけていたガザリアはともかく、レニのほうは、先ほどのミストアとのやり取りをしっかりと聞いている。

もしかしたらロイズの正体に疑念を抱いているのかもしれなかった。

(じー……。)
――――。

レニ、アメ玉をあげよう。
!!
(コロコロ……。)

あいかわらずの無表情だが、どこか満足げだ。

(ちょろすぎて逆に不安になるな……)
  ・
  ・
  ・
森を抜ける。
時間はかかってしまったが、ちょうど元の街道の先に迂回して戻ってきた形だ。

ミストアの気配はない。

……どうにか、まいたみたいだね。
ああ。

そこでロイズは、先の戦闘から気になっていたことを思い出す。

ところで――

ロイズはレニに向き直った。彼女はいま、3つめのアメ玉を舌の上で転がしている。
(コロコロ。)
おまえの魔法について聞きたいことがある。

……いや、魔法と呼んでいいのかどうか、そこからの問題だがな。
…………。
なんのことやら。

若干しゃべりにくそうにしながら、レニはプイっと顔をそむける。

ミストアの――悪魔の使った魔法障壁は、人間のそれとは比べものにならない代物だ。【ギガ】クラスの魔法すら打ち消してしまう――普通ならな。
――どう見ても、おまえの魔法にそれほどの威力はなかったんだが?
……すえは大魔法使い、なので。

なんかすごいパワーがかくせいしたのだとおもいます。
…………。

グミをやろう。
!!
(もにゅもにゅ。)
よーし食え、子どもはグミが大好きだろう?
なに情報なのお兄ちゃん……。
わたしの魔法はとくべつ。

ぽつり、ぽつりとレニは語り出した。

レニ式』がどうとか言ってたよな。
わたしは異端の魔法使い。

ゆえに魔法もとくべつ。
異端? なにが?
そこから先は……

レニが期待する目で見あげてくる。

…………。
ガム入りのアメをやろう。舐め終わったら中からガムが出てくるやつだ。くじも付いている。
!!!
(ガリガリガリガリ!)
噛むな、落ち着いて食え。
……わたしの父と母は武闘家。その父と母も、その前もずっと。兄も武闘家、姉も武闘家。
武闘家――。

レニ、あなたの家は?
…………。

わたしはレニ・ナニャーニャ。
ナニャーニャ……聞いたことがあるわ。たしか、古武術の大家よ。
わたしはとくべつ。武術のセンスはない。

代わりに大魔法使いになる宿命をせおって生まれた。
……たいして魔力を感じないんだが?
いや、今はともかく、魔法を使ったときにもまったく――だ。
…………。
おまえの『とくべつ』な魔法、どうやってるんだ?
…………。
あとでアイスを買ってやる。
3段で。
分かった分かった。
ガザリアが4段のやつ買ってやるってよ。
ちょっと!?
さっきの氷魔法はどうやったんだ? ミストアの魔法障壁からの干渉を受けていなかっただろう?
……くうき。
空気?
空気はつぶつぶで出来ている。
??
その小さなつぶつぶは、動きが激しいほど空気が熱くなる。逆に遅いと……冷たい。
だから、その『つぶつぶ』を、こう――

レニは両手の指を、わきわきと動かしてみせる。

は?
それがどうし……ん、ひんやりとしてきたような……。
あ、さっきもこんな感じだったよ!
レニ、だから何をしてるんだ?
つぶつぶを指でつまんで、動きを止めている。
???

いや、そもそも『つぶつぶ』? おまえには何がどう見えてるんだ?
がんばれば見える。小さなものも、目をこらせば見える。

わたしの視力――こほん。魔力をもってすればたやすいこと。
…………。
じゃあ、雷魔法のときは?
いかずちを呼ぶ儀式はもっとかんたん。

長袖の服を着て、からだをたくさん揺らして――超魔力で振動させて、電撃をつくる。
静電気じゃねぇか。
静謐なるいかずち。
やかましいわ。
ど、どういうことなのお兄ちゃん?
――はぁ。

ロイズはこめかみを押さえながら、

つまりこいつはエリート武闘家の一族で、その類いまれなる身体能力でもって、『魔法を再現』しているんだよ。
再現? じゃあ魔法そのものじゃないってこと?

……だから、『魔法を防ぐ』ための魔法障壁をすり抜けて――
ちがう。

うさぎのぬいぐるみさん、それはちがう。

ガムをもっちゃもっちゃ噛みながら、レニが反論する。

魔法。すべては魔法。

すべてはあなたと同じ、魔力による奇跡。
家族はみんな、わたしに魔法の才能がないと言う。武闘家になれとせまってくる。

ぜんぜん見る目がない。わたしは大魔法使いになる宿命のおんなだというのに。
だから証明する。
そのために――家を出たの?
いえす。
もう諦めて武闘家になれよ。

レニの、無駄に強い腕力やら、どれだけ走っても息切れしない体力を思いながらロイズは嘆息する。

たぶんそっちのほうが才能あるぞ。
武闘家の才能なんてあるはずがない。

体力もない、腕力もない。

魔法使いなので。
あのなぁ――

ロイズがやれやれと首を振ったそのとき、

れ、レニちゃん!
危ないっ!
ブモーーー!
暴れ牛だ!

アーヴの街から王都に向かう途中だったのだろう――荷車を引いていたらしい牛が、御者を振り払い、こちらへ猛然と走ってくる!

ブモ"ーーー!!
あ、ああ! 逃げて、逃げてください!

暴れ牛はレニの背後まで迫っていた。

っ!

驚き振り向いた少女の、そのすぐそばまで。

勇者パーティーががん首そろえて気づかなかったのも仕方がない、だって暴れ牛だもの!

ああ哀れ、幼い少女は猛牛に轢かれて無惨な姿に――

ふんっ!

その刹那、レニはしゃがみ込むと、地面に突いた右手を軸にぐるりと回転し、猛牛に烈風のような足払いをくらわせた!

ンモ"っ――!?

牛の巨体が宙に浮く。

せいっ。

今度は、レニの掌底が牛の横っ腹にクリーンヒット。

さらに――

とうっ。てつざんこう。
肩からの体当たり。

牛は成人男性の何倍もある体躯をしているが――その小さな少女の体当たりは、猛牛の巨体を吹っ飛ばす。どんっ、どんっと何度か地面でバウンドして、ようやく転がる牛は動きを止めた。

小柄な少女による、目の覚めるような連続攻撃であった。
ブ、ブモー……。
…………。
…………。
おいレニ――
レニ式 風魔法……ごうは、ごう……【剛羽・瞬嵐刹】!
だからやかましいわ!

◆ 武闘家 
◆ 大魔法使いが仲間に加わった!
 (お菓子目当てで)


第3章 了
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登場人物紹介

ロイズ

不労所得をこよなく愛する悪魔。今は仕方なく勤め人に身をやつしている。
属性:怠惰

ララミ

ロイズの妹。非悪魔的思考をつかさどる悪魔。兄とは正反対で品行方正。
属性:色欲

ララミ(人間界バージョン)

非悪魔的なルックスで兄を困らせる。
そうび:出刃包丁

ガザリア

ロイズとともに選ばれた勇者の1人で、旧王家の末裔。驚異の胸囲を持つ17歳。
属性:傲慢

レニ

すえは大魔法使いとウワサされる少女。誰がウワサしているのかは知らない。実は人肌が恋しくて仕方がない。
属性:暴食

シェリー

ロイズの上司。悪魔的勤勉さでもって、若くして管理職にのし上がった有能な悪魔。
属性:強欲

魔王

部下を地獄の業火で焼き尽くすのが趣味。でも夜はM。
属性:??

ゴラザイアス

魔王の秘書。低級モンスターだが、その爪は一撃で人間の頭部を砕くことができる。しかし背が低いので頭部に届いたことはない。

使い魔(ヘビ)

残業が好き。

シノゥ

エルフ族の勇者。もと踊り子らしいが……?

属性:??

エンディ・ローンズ

もとトレジャーハンター。たぶん蛇とか苦手。

奥太郎

健全なオーク。同族からは知能派美男子と呼ばれる人気者。じつは簿記2級のスゴ腕。

カイト

温泉街のアルバイター。人を探している。

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