第１話 悪魔的寝起き
文字数 1,172文字
お兄ちゃん、早く起きて！ お仕事遅刻しちゃうよ！
うーん……あと５年……
もう！ せっかく魔王城に就職できたのに、クビになっちゃうよ!? また３０年ぽっちで解雇とか、履歴書が汚れちゃうよ！
いいんだよ……そのほうが悪魔的だろ……
悪魔的じゃなくていいから、お仕事いって！
ＺＺＺ……（分かった分かった。可愛い妹のためだもんな。お兄ちゃん頑張るよ）
器用なことしないで！ 夢で返答しないで！ そして心にもない！
……いいか、ララミ。
世の中にはな、ぐぅ……
寝ないで！
……ああもう。先月の家賃もまだなのに。どうしよう。
コンコンコン……。
悪魔アパートのドアをノックする音だ。
誰だろう？……こんな朝から
お邪魔するわねぇ。
あら、もしかしてあなた、ロイズ君のお嫁さん？
えっ、えっ!?
兄とはそんな関係では！……だ、断じて、そのような背徳的で、悪魔的なことは!!
冗談よ。真っ赤になっちゃって可愛い。
えっと、お兄さんは？
え、まだ悪魔布団に入ったままで……あの、失礼ですが
あらごめんなさいね。私はシェリー。お兄さんの上司よ
上司！
えっちな上司よ
えっちな！
――あら、ホントに寝てるのね。
……ＺＺＺ（たった８年欠勤したくらいで、なんで家にまで来てんだよ。地獄に帰れよ、死ねよ）
狸寝入り、いいえ、悪魔寝入りね。すばらしいわ
…………
い、いやあおはようございます、シェリー課長！ ご無沙汰してます！
ご無沙汰してるのはあなたのせいだけれどね。
……まあ、仕方ないわ。ロイズ君ってば伝説的新入悪魔だものね。出社初日に午後から年休。無断欠勤はしょっちゅう。
えーっと、ここ最近は８年くらい連続欠勤だったかしら？
７年です
……そういう、臆面もなく地味にサバ読むところ、嫌いじゃないわよ。悪魔的で
お兄ちゃん!? たまにちゃんと出勤してたはずなのに？
妹ちゃん。
この人はね、一旦家を出てから悪魔児童公園のブランコで時間をつぶして、妹ちゃんが悪魔中学校に登校した頃を見計らって、それから家に帰ってきていたのよ
ええっ!? でも、私が学校から帰ったときには……
その時間帯には悪魔コンビニで立ち読みね。何も買わずに
お兄ちゃん……
哀れみの視線はやめようか妹よ。兄は本能に忠実なだけなのだ。
……で、シェリー課長はなぜウチに？
決まってるわ。あなたにクビを宣告しに来たの。いくら悪魔だからって、働かない者に支払う給料などないのよ。
すべては魔王様からのご命令。さあ、生首を差し出しなさい
うえー、マジすか……。
くそっ。上司なら部下のことかばえよな、この年増め……
――なんちゃって。
実は、最後のチャンスをもらって来たのだけれど……
さっすがシェリーさん！ 美人で肌もピチピチ、うす紫！ よっ、パープルの中のパープル！
（なんという悪魔的手のひら返し……）
……そういう、悪魔的ゲスさを見込んでのお仕事よ。
ロイズ君、あなた――勇者になりなさい
