第34話 悪魔的変貌
文字数 1,803文字
胸を押さえて苦しむロイズが膝を突く。その膝を突いた床面から、じわじわと黒い霧のようなものが染み出て、まるで意志を持つかのようにロイズの体を覆った。
飛び出てきたロイズが、幼い妹を背に両手を広げてかばった。
咆哮とともに、ロイズの体から雷が発せられてフロアの天井や壁を焼いた。
さらにはその変貌したロイズの魔力の波に当てられ、ミストアの手から魂の契約書が舞い散る。
すうっと宙を滑ったその一枚を、ロイズが掴む。
言い終える前に、ロイズが炎の魔法を放つ。
ミストアの魔法障壁が瞬時に展開されるが、ロイズの炎弾はそれをガラスのように割って、ミストアの顔面に衝突する。
今度は雷の槍が、ミストアの肩口に突き立つ。
2本、3本、4本と、次々と生成された雷の槍が、ミストアを貫いて串刺しにする。
ロイズの根源魔法である黒い渦が、彼の周囲に浮かぶ――9つの黒渦。そのそれぞれの大きさは、最前ロイズが見せたものより遙かに大きい。
カジノの床面が、どくんどくんと脈打っている。
狂気を浮かべるミストアに、吸い取られた魔力が集められていくのが感じられた。
9つ――どころではなかった。
黒い渦は無限と思えるほどの物量でもってフロアを埋め尽くす。
ロイズの魔法が街を埋め尽くす。
夜のアーヴの街を飲み込む黒い津波。悪魔と契約を交わされ魂を抜かれた人間、通りすがりの旅人、カジノ内部で倒れる客たち――
宣言どおり、ロイズは区別なく誰も彼もを怠惰に沈める。
ミストアが倒れ込むのと同時、悪魔カジノが崩壊する。内なる支えを失ったかのように、天井が、壁が、床が崩壊していく――。