第57話 悪魔的手つき
文字数 2,643文字
抵抗するも、ジグの取り憑いたシノゥの腕はあまりに非力だ。
とはいえ――
奥太郎も、血まみれで満身創痍である。
魅了の魔力が渦を巻いた。
ほのかに光るその魔力の渦は、シノゥ自身を囲むように密度を増す。
シノゥの咆哮が魔力を高める。
異常を異常で上書きする。
あまりに分が悪いその無鉄砲な賭けに――ロイズは
ガザリアとエンディの鞭に打たれながらも、ロイズは風の魔法を発動させた。
シノゥの足下から風が逆巻き、ドーム状に壁をつくる――魅了の魔力を一点に集中させるための外壁だ。
魔力の
風の外壁が内側から押し出されて砕け散る。
ごうという暴風が遺跡に吹き荒れ、刹那の静寂が残される。そして――
ジグの霊体がシノゥの肉体からはじき出されて宙に舞う。
ジグによる魅了は解けたはずだ。ロイズは聖剣WLBを構えるガザリアに
――が、
まだ彼女は自失としている。
なにか、
ロイズは死力をしぼってガザリアの背後に回り、するするっと器用に両手を胸にすべりこませ、
悪魔的手つきでガザリアの胸を揉む! 揉む! 揉む!!
ほとんど反射的に振りまわされた純白の鞭――聖剣WLBは、美しい軌道で悪魔ジグの霊体をとらえた!
霊体はあくまで霊体――ジグの本体ではない。だが彼の精神そのものでもある。本体の精神を分裂させ、自在に操るのがこの術である――。
痛みは本体と共有される。ダメージを与えられる。しかも、まさしく『精神そのもの』を叩き直す聖剣WLBであればなおさらだ。
苦痛にもだえるジグは通路へ逃れようとする。
ジグの待機していた部下――巨大なドラゴンが通路の闇から飛び出してきた。
大口を開け、霊体のジグを呑み込む。
身構えるロイズたちに、しかし行動を起こす余裕は与えられなかった。
竜の現れた通路から、そしてさらに、別の通路からも使い魔とおぼしき小型のドラゴン――先の部屋で現れたのと同種のモンスターが数十匹、大挙してこの聖櫃の部屋へとなだれ込んできた……!
正気を取り戻した途端混乱に突き落とされた、あわれなエンディのことなど気に掛ける余裕もなく、ロイズは巨竜のほうへと身を向ける。
巨竜はロイズたちには目もくれず、ジグを体内にかくまったまま、身をよじらせ上空へと鋭く飛ぶ!
上方――遺跡の天井だ!
巨竜の突き破った天井が崩落し、左右前後から蛇のごとき竜の群れが迫る――!
ロイズの総身を黒い魔力が包む……!