第43話 悪魔的感想
文字数 2,278文字
ガザリアが目を覚ますと、あたりはすっかり夜だった。
静かな夜。
体を起こして目をこする。
暗い中でも、ようやく目が慣れてきて――。
すっかり乱れた着衣。
肩は丸出し。わずかに動くだけで、豊かな胸がこぼれ出そうになる。ガザリアは反射的に胸を隠す。
同じベッドで、うつ伏せになり眠っているロイズも、やはりシャツが乱れている。『何かがあって』から、そのまま突っ伏して眠ってしまったような、そんな格好なのである。
はっと気づくと、ガザリアとロイズの間では、ララミとレニが小さな寝息を立てて眠っていた。
ガザリアの顔がさあっと青ざめる。
自分が何を口走ったのか、ガザリアは必死に思い出そうとする。
普段から思っていたこと。
酔いに任せて、つい漏らしてしまった自身の気持ち。
そして、妙に優しい――というか、腫れ物に触るかのようなロイズの態度。
ガザリアは同年代の男友達を持ったことがなかった。
旧王家であるソリッシュ家の跡継ぎとして育てられたガザリア。没落したとはいえプライドだけは後生大事に受け継いできた彼女の一族は、そのへんの庶民たちと対等に交わるのを良しとしなかった。
ガザリアがまともに接する男性といえば家族のみ。それも男兄弟がいないので、父と祖父だけだった。
こうして、男性とともに旅をするなどもちろん初経験。同年代の男性をこれほど身近に感じるなど――。
……まあ、悪魔のロイズを同年代と言っていいかはともかく。
ガザリアは自分の気持ちと向き合い、煩悶する。
この旅の中でロイズのことを、『こんなふうに言い合えるっていいな』とか、『意外と仲間思いなところが可愛いわね』とか、『死んだ魚みたいな瞳も一周回ってチャームポイントかも』などと、憎からず思い始めている自分がいるのだ。
いや。
この際だ、もう少しはっきり整理しよう。
そうだ――。
認めたくないが、ロイズに好意を抱きつつあるのだ。
初対面で『嫁になれ』だのと言われて、『打倒・現王家』の裏切りを共有する仲になり、ともに死地をくぐり抜けてきた。
勇者になったときには独りで魔王を倒すつもりでいたが、今ではもう、ロイズたちとの旅が心地よくなっている。ロイズと居るのが当たり前になっている。もっとこうしていたいと思っている――。
ガザリアはロイズの視線から隠すように、あらわになっていた自身の両肩を抱きしめる。
深く息を吐いたあと、意を決し、上目遣いでロイズにたずねた。
オレもそう思ってたし。
……でも、おまえがあんなふうに思いつめていたとはな。
まあいいさ。ちゃんと自覚したんならそれはそれで。だから一応、明日からもおまえに付き合ってやるよ。めんどくせぇけど、これも仕事のうちだしな。
ロマンスめいた言葉を期待していたわけではなかったが、しかし、これほどまでに疎まれているとは――。
動揺を悟られないようにとロイズに背を向け、ガザリアは布団をかぶる。
ガザリアが姿を消したのは、その夜のうちのことであった。