第43話 悪魔的感想

文字数 2,278文字

…………。
う、ん……?
あれ、私……。


ガザリアが目を覚ますと、あたりはすっかり夜だった。


静かな夜。


ここは、どこ?


ベッド……。


体を起こして目をこする。


暗い中でも、ようやく目が慣れてきて――。


(えっ、ええっ!?)
(ロ、ロイズがなぜ私のベッドに?! ああっ、それになんで私こんな……!)


すっかり乱れた着衣。


肩は丸出し。わずかに動くだけで、豊かな胸がこぼれ出そうになる。ガザリアは反射的に胸を隠す。


同じベッドで、うつ伏せになり眠っているロイズも、やはりシャツが乱れている。『何かがあって』から、そのまま突っ伏して眠ってしまったような、そんな格好なのである。


(ど、どうして……思い出しなさい、思い出すのよ私っ……!)
(宿に着いて、夕食を……。そうよ、うん、ぶどうジュースを飲んだところまでは覚えて――)
はっ!?


さてはアレはブドウ酒ね!? 私を酔わせて、こんな、こんな……! なんて悪魔!

……うるせぇぞ、バカ。
!!?
あなた、起きて――?
おまえがゴチャゴチャ言ってるから目が覚めちまったんだよ。
あー、くそ。


あちこち痛ぇな。

な、なにがあったの……?


あなたの部屋は別に取ったはずでしょう?

……おまえ、本気で覚えてないのか?


あんな激しい――

激しい!?
おかげで腰が……ったく、おまえは激しすぎるんだよ。
は、はわわ……!
大変だったんだぞ。おまえとララミ、そんでレニまで同時に相手にするのは。
ふぇっ!?


はっと気づくと、ガザリアとロイズの間では、ララミとレニが小さな寝息を立てて眠っていた。


ガザリアの顔がさあっと青ざめる。


誤解がないよう先に言っておくぞ?


ワインを飲んだのはおまえだからな? 勝手に注文まちがえて、気づかずにガブ飲みして。そんであんなこと口走るから――

私が、何を――
……マジで記憶がないのか。


ふう。

いや、おまえ……普段からあんなこと思ってたんだな。まあなんだ、オレも気が利かなかったというか、気がつかなかったというか。

え、普段……?
いや、だから悪かったよ。あんなふうに思ってたなんてな。
え、えっと……。


自分が何を口走ったのか、ガザリアは必死に思い出そうとする。


普段から思っていたこと。

酔いに任せて、つい漏らしてしまった自身の気持ち。


そして、妙に優しい――というか、腫れ物に触るかのようなロイズの態度。


(も、もしかして……!?)


ガザリアは同年代の男友達を持ったことがなかった。


旧王家であるソリッシュ家の跡継ぎとして育てられたガザリア。没落したとはいえプライドだけは後生大事に受け継いできた彼女の一族は、そのへんの庶民たちと対等に交わるのを良しとしなかった。


ガザリアがまともに接する男性といえば家族のみ。それも男兄弟がいないので、父と祖父だけだった。


こうして、男性とともに旅をするなどもちろん初経験。同年代の男性をこれほど身近に感じるなど――。


……まあ、悪魔のロイズを同年代と言っていいかはともかく。


(う、うう……!)


ガザリアは自分の気持ちと向き合い、煩悶する。


この旅の中でロイズのことを、『こんなふうに言い合えるっていいな』とか、『意外と仲間思いなところが可愛いわね』とか、『死んだ魚みたいな瞳も一周回ってチャームポイントかも』などと、憎からず思い始めている自分がいるのだ。



いや。

この際だ、もう少しはっきり整理しよう。


そうだ――。

認めたくないが、ロイズに好意を抱きつつあるのだ。


初対面で『嫁になれ』だのと言われて、『打倒・現王家』の裏切りを共有する仲になり、ともに死地をくぐり抜けてきた。


勇者になったときには独りで魔王を倒すつもりでいたが、今ではもう、ロイズたちとの旅が心地よくなっている。ロイズと居るのが当たり前になっている。もっとこうしていたいと思っている――。


(それが、私の気持ち)


では、ならば――胸の内に秘めていた好意が、ついに今日、酒の勢いとともに溢れだしてしまったのであれば――。


(私が変なこと口走って、それでロイズが本気になっちゃって……こんなことに?)


ガザリアはロイズの視線から隠すように、あらわになっていた自身の両肩を抱きしめる。


深く息を吐いたあと、意を決し、上目遣いでロイズにたずねた。


――ひ、ひとつ聞いていいかしら?


あの、その、私の告白を聞いて……どう、思ったの?

どうって――
い、いいから。


私に気を遣わなくていいから――。

だから、本当のことを言って。


私も……その、覚悟はできてないけど、一応、あなたの今の気持ちを知りたいっていうかなんていうか……。

はあ?


……まあ、別におまえに気を遣うつもりはないけど。

正直、可哀想だなって思ったな。
!!
おまえがララミやレニに敵わないのは、誰が見たって明らかだろう?

オレもそう思ってたし。


……でも、おまえがあんなふうに思いつめていたとはな。


まあいいさ。ちゃんと自覚したんならそれはそれで。だから一応、明日からもおまえに付き合ってやるよめんどくせぇけど、これも仕事のうちだしな。

…………!


ロマンスめいた言葉を期待していたわけではなかったが、しかし、これほどまでに疎まれているとは――。


そ、そうよね。あはは……。


私たちはただの共犯者、現王家を貶めるためだけの協力関係、だもんね。プロポーズだって、こうして旅を続けているのだって、そのためで――。

なにをゴニョゴニョと?


……おい、ガザリア?

な、なんでもないから!


明日からもがんばりましょう、おやすみなさい!


動揺を悟られないようにとロイズに背を向け、ガザリアは布団をかぶる。


なんなんだ、本当に分からんやつだな……。
…………。

ガザリアが姿を消したのは、その夜のうちのことであった。


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登場人物紹介

ロイズ

不労所得をこよなく愛する悪魔。今は仕方なく勤め人に身をやつしている。
属性:怠惰

ララミ

ロイズの妹。非悪魔的思考をつかさどる悪魔。兄とは正反対で品行方正。
属性:色欲

ララミ(人間界バージョン)

非悪魔的なルックスで兄を困らせる。
そうび:出刃包丁

ガザリア

ロイズとともに選ばれた勇者の1人で、旧王家の末裔。驚異の胸囲を持つ17歳。
属性:傲慢

レニ

すえは大魔法使いとウワサされる少女。誰がウワサしているのかは知らない。実は人肌が恋しくて仕方がない。
属性:暴食

シェリー

ロイズの上司。悪魔的勤勉さでもって、若くして管理職にのし上がった有能な悪魔。
属性:強欲

魔王

部下を地獄の業火で焼き尽くすのが趣味。でも夜はM。
属性:??

ゴラザイアス

魔王の秘書。低級モンスターだが、その爪は一撃で人間の頭部を砕くことができる。しかし背が低いので頭部に届いたことはない。

使い魔(ヘビ)

残業が好き。

シノゥ

エルフ族の勇者。もと踊り子らしいが……?

属性:??

エンディ・ローンズ

もとトレジャーハンター。たぶん蛇とか苦手。

奥太郎

健全なオーク。同族からは知能派美男子と呼ばれる人気者。じつは簿記2級のスゴ腕。

カイト

温泉街のアルバイター。人を探している。

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