第13話 悪魔的抱擁
文字数 1,329文字
街道の脇に、これ見よがしに放置された箱。
そしてその中にうずくまる少女――
…………。
あれは……なに？
箱の前面には何やら文字が書かれてある。
ははっ。ガザリアお嬢様は文字も読めないのか。
いいか、あれは『拾ってください』と書いてあるんだぞ。どうぞお好きに持って行ってくださいという意味だ。
――ふんっ！
おわっ、剣を振り回すな！ しかも抜き身！
……捨てられたのかしら。
いや、それとも、家族と折り合いが合わずに家を飛び出したものの、幼い身空では食うに食われず、ああして、心ある人の差し伸べる手を待っている――のかもしれないわね。
想像力のたくましいことで。
ほら、行くわよ！
あのなぁ……。
迷いなく近づいていくガザリアに、ロイズも仕方なく追従する。
ねえ、どうしたのあなた？
ガザリアは少女に話しかける。歳は10～12歳くらいだろうか。
………。
実は――
家族と折り合いが合わずに家を飛び出したものの、幼い身空では食うに食われず、こうして心ある人の差し伸べる手を待っているのです。
ガザリアは振り返って、ぱあっと眼を輝かせる。
ねっ！ 言ったとおりでしょ？
…………。
でも危ないわよ、最近は妙に強いモンスターがうろうろしてるから。
はあ。
それはへーきです。
モンスターはたいがい、ボクの魔法で倒してしまうので。
あなた、魔法使いなの？
いずれ大魔法使いになります、レニです。
レニちゃんか。
…………。
どう思う、ロイズ？
ボクっ娘もなかなかいいな。
オレは嫌いじゃないぞ。
そうじゃないわよ！
大魔法使いか何か知らないけど、いくらなんでもこのまま置いておくワケにもいかないでしょ？
まさか、仲間にしろと？
せめて次の街に着くまで保護してあげましょう。それから家に帰るよう説得するなり――
面倒だがな……
頭をかきつつ、ロイズは少女に向き直る。
魔法が使えるって言ったよな？ 道中、オレたちに協力するなら、もっと人の多いところへ連れて行ってやるが？
…………。
こくり。
少女はうなずく。
……子守は得意じゃないが。
ほら行くぞ、立て。
―――ん。
少女は箱に座り込んだまま、両手を差し伸べてくる。
――は？
魔法使いは体力がないので輸送を望みます。
輸送って――
……だっこしてあげればいいんじゃない？
はぁ!?
含み笑いのガザリアは、ここぞとばかりにロイズを煽る。
ほら、待ってるわよロイズお兄ちゃん。うさぎにだっていつも『お兄ちゃん』って呼ばせて……あなた、妹が欲しかったんでしょう？
あのなぁ。オレは疲れることはしない主義なんだ。いいか、お前も自分の足で――
ロイズが少女にぐいと詰め寄った、そのとき、
チャンス。
少女はロイズに飛びつき、しがみついた。
だっこの体勢だ！
お、おい！
離れろ、邪魔だ！
ぎゅ。
見つけたボクのベストポジション（はぁと）
レニは両手両足でロイズにしがみついて離れようとしない。
なかなかの力だ。
妹っていうより、もうそれ娘っぽいわね。
…………。
さあ出発です、ロイズパパ。
誰がパパだ！
お、お兄ちゃん……っ！ 私、そんな大きな子を産んだ覚えはないよ！
オレも産ませた覚えはねぇよ！ 大きいのも小さいのも産ませたことはねぇ！
………パパ。
だからパパじゃねぇっつってんだろ！
レニは表情ひとつ変えずに言う。
ゆれが激しい。もっとやさしく。
やかましいわ！
