第10話 悪魔的復讐

文字数 2,582文字

ロイズの突然の告白に2人が取り乱していた、そのとき――。

王都の目抜き通りに、鋭い悲鳴がとどろいた。
も、モンスターよ!
―――っ!?
ガザリアは反射的に振り返り、悲鳴のしたほうへと走りだす。
おにヒモちゃん……じゃなかった、お兄ちゃん!
ややこしい噛みかたをするな。

――なんだよ? 行かねーぞ。
もう、一応勇者なんだから!
うさぎ天使に耳たぶを引っ張られ、ロイズは不承不承ガザリアのあとを追う。

するとそこでは――
シャー
蛇(?)のモンスターが町人を襲っていた。
シャー
つ、つぶらな瞳……。
でもあの魔力って、普通のモンスターじゃないよね。もしかして、悪魔の――使い魔?
さあ行くわよ! ロイズ、だったかしら――手を貸しなさい!
はぁ? なんで?
な、なんでって……勇者でしょう!

力なき民が襲われているのよ?
助けるのが当たり前でしょう!
襲われてるのがアイツでもか?
アイツ』……??

…………っ!!!

ガザリアの表情が固まる。
あ、アイツ……。
ひぃ~~! お助けを~!
レンタルショップの店主だ――先ほどのあの店主が、モンスターに襲われている。店から転がり出て、蛇の牙から逃げ惑っていた。
シャー

ぎゃぁああ~!
突然のことに足を止めた通行人や、他の店の人間は、何も出来ずに震えている。
…………。
――な。

あんなヤツは放っておいて、話の続きをするぞ。
み、見くびらないでちょうだいっ!
肩に乗せられたロイズの手をガザリアは、ぱっと振り払う。
あんな悪徳商人でも、未来の私の国民よ? 助けないわけ――ないじゃない!
剣を引き抜き、猛然と突進する。
は、あああああ――っ!
シャー!
流星のような斬撃が打ちおろされ、斜めに斬り飛ばされた蛇の首が宙を舞う。
す、すごい!
いや、まだだ……!
シャー
蛇のモンスターは再生する。真っ二つになった体のそれぞれから、欠損した部分を補うように、にょきにょきと肉体が生えてくるのだ。
シャー
シャー!
ふ、増えた……!?
くっ……!
いくら斬っても同じことだった。
蛇は増え続け、ガザリアは消耗する。

剣だけで相手をするにはあまりにも相性が悪い。

そして蛇のモンスターは、なぜか執拗に店主を追いまわすのだ。
ひ、ひいっ、食べないで、助けて!
あ、あなた! 動き回らないで、守れないでしょう!?
お兄ちゃん、助けてあげようよ!
ガザリアをか? ここでやられるくらいならそれまでの器だった――ってだけだろ。
もう!
あの悪徳店主を守る義理だって、オレにはこれっぽちもないだろう。

……しかし、あの蛇どもはなんでアイツを追い回してるんだ? いや、それならあの店主が食われれば万事解決するんじゃないか?
シャー
ニオイ、ニオイ、スル――
蛇のモンスターがうねうねと蠢き、しゃべる。
悪魔ノ、ニオイ、探ス……。コノ人間、悪魔ッポイニオイ、スル。
なんだ、やっぱり自業自得じゃないか。
悪魔、裏切リ者、探ス――ロイズ、裏切リ者デ、ナマケ者ノ、ロイズ……魔王サマヲ裏切ッタ。
…………。
…………。
お兄ちゃん?
同名の別人だろ?
三白眼デ、無造作へあーデ、8年連続欠勤ダッタ、ロイズ……。
探ス。命令。
ロイズ、探ス、ソレガ仕事。
………ははっ。

親近感がわくなぁ、そのロイズ君とかいう同名のイケメン。
無理があるよお兄ちゃん!
あの使い魔、剣じゃ倒せないよ、魔法じゃないとダメだよ! ガザリアさんは魔法苦手みたいだし、今の私は、魔法使えないし……。
いや、まだ悪魔の使い魔と決まったワケじゃないだろ? ただの野良モンスターって可能性もあるし――。
ア……定時。
定時。ヤッタ。
ヤット定時キタ……。
ほら見ろ、定時を気にしているぞ?

……いいか、社魔の使い魔なら定時で喜ぶはずがない。
定時……。
ツマリ、コレカラ残業。
サービス残業!

デビル残業!
ヤッタ。残業、スキ。
…………。
ロイズの頬がひきつる。
定時スキ。残業デキル。
残業ガ本番。
残業コソ、仕事……。社魔サマ、ソウ言ッテタ――。
意識トブ、サイコ。
最高、サイコー!
ロイズ見ツケルマデ、帰レナイ。残業ツヅク――嬉シイ。
ロイズ、悪魔。勇者ノふりシタ、悪魔――。
遠巻きに見る往来の人びとも、不審なつぶやきに耳を傾け出している。今日は『勇者』初日である――いきなり正体がバレては、元も子もない。
ちっ……!
あのクソ使い魔どもめ……!
ロイズは拳を振るわせながら、仕方なく覚悟を決めた。なんと言っても魔法を使うと腹が減る。
消えろっ!
ロイズの火炎魔法が発動した。無造作にかざした手のひらから燃えさかる火の玉が轟然と発射され、蛇の群れへと突っ込み、大炎をあげる。
シャー!
燃エル、熱イ……仕事、モウ、デキナイ……。
モット、残業、シタカッタ――。
使い魔たちは、断末魔の悲鳴とともに灰となった。
ったく。手間かけさせやがって。
ちょ、ちょっと!
半分焦げたガザリアが、肩を怒らせ近づいてくる。
私まで巻き込まれかけたじゃない! 街中で【ギガフレア】なんて、そんな物騒な魔法使ってんじゃないわよ!
は? 今のは【ギガフレア】じゃないぞ。ただの【フレア】だ。
えっ。う、嘘……だって、こんな威力……。
――ごほん。
今のは【ギガフレア】ではない。【フレア】だ。
なんで大魔王っぽく言い直すのお兄ちゃん……声まで渋くなっちゃってるし。
む? 余はいつもこんな声だが?
『余』とか言わないの!
……って、あああああ!?
なんだ大声出して―――
ロイズの放った【フレア】は蛇の使い魔たちを一掃したが、ついでに、その背後にあったレンタルショップもごうごうと燃えていた。
…………。
…………おい、未来の女王様。
なんとかしろよ、アレ。
あ、あなたがやったんじゃない!
別に、オレはあいつらの王でもなんでもないからな。
ぐぬぬ……!
あああ! 俺の店が、せっかく客から巻き上げた財産がぁああ!
奇跡的に延焼はなく、レンタルショップだけが燃えさかり、崩れ落ちる。ガザリアの行動が早かったおかげで、他に目立った犠牲はないようだ。
く、国とは……。
国?
国とは! 土地ではなく、お金でもなく――ましてや、レンタルショップの店舗なんかでもない!!

国とは人!

そう、国民さえ無事ならあとはオールオッケー!
なかなかの力技……。
うん、いい解釈だ。オレはお前を支持するぞ、女王様。
ふ、ふん。じゃあこっちに気づかれないうちにトンズラ……じゃなかった、勇者は颯爽と去るわよ!
ああ、長居は無用だな。
(うーん、ちょっと似てるかも、この2人……)
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登場人物紹介

ロイズ

不労所得をこよなく愛する悪魔。今は仕方なく勤め人に身をやつしている。
属性:怠惰

ララミ

ロイズの妹。非悪魔的思考をつかさどる悪魔。兄とは正反対で品行方正。
属性:色欲

ララミ(人間界バージョン)

非悪魔的なルックスで兄を困らせる。
そうび:出刃包丁

ガザリア

ロイズとともに選ばれた勇者の1人で、旧王家の末裔。驚異の胸囲を持つ17歳。
属性:傲慢

レニ

すえは大魔法使いとウワサされる少女。誰がウワサしているのかは知らない。実は人肌が恋しくて仕方がない。
属性:暴食

シェリー

ロイズの上司。悪魔的勤勉さでもって、若くして管理職にのし上がった有能な悪魔。
属性:強欲

魔王

部下を地獄の業火で焼き尽くすのが趣味。でも夜はM。
属性:??

ゴラザイアス

魔王の秘書。低級モンスターだが、その爪は一撃で人間の頭部を砕くことができる。しかし背が低いので頭部に届いたことはない。

使い魔(ヘビ)

残業が好き。

シノゥ

エルフ族の勇者。もと踊り子らしいが……?

属性:??

エンディ・ローンズ

もとトレジャーハンター。たぶん蛇とか苦手。

奥太郎

健全なオーク。同族からは知能派美男子と呼ばれる人気者。じつは簿記2級のスゴ腕。

カイト

温泉街のアルバイター。人を探している。

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