第15話 悪魔的敬称
文字数 1,058文字
さあ、そろそろアーヴの街に着くわよ――
って、あなたたち……。
先頭のガザリアが、あきれ顔で振り向く。
あああっ！
レニ、このガキっ！
ガチャを勝手に！
ぽちー。
ピキューン！
１日１回の無料ガチャは外れを引いた。
さらにぽちー。
バカ、そっちはオークションサイト！
きっ、貴様！
悪魔か？ 悪魔なんだな！
ね、ねえお兄ちゃん、聞いてってば……！
…………。
なんだかもう、カオスである。
……はあ。
まるで緊張感がない。
これでこの先やっていけるのだろうか……。
と、そこでガザリアは、街道の先にまたしても何かを発見した。
あれ？
あれって……人？
人がうずくまってる？
う、うう……。
ねえロイズ、あなたまだ水筒残ってるわよね？
ちょっと貸してもらうわよ。
待て！ それはオレの虎の子の――
向こうに人が行き倒れてるのよ！
我慢しなさいよ。
また荷物をしょい込む気か？
おまえ絶対あれだろ、捨て猫やら捨て犬やら拾いすぎて、余計に貧乏になった口だろ。
うぐっ……！
ノ、ノーコメント。
でも、人が困ってるの。
そして私たちは勇者！
さらに私は、正当なる王家の末裔なのよ！
見過ごすなんてあり得ない！
ロイズから水筒をひったくって、ガザリアは旅人らしき風体の男に駆け寄る。
もしもし、大丈夫!?
水、飲めるかしら？
す、すみません。
助かります――
くそ……どいつもこいつも。
オレの安寧の邪魔をしやがって。
…………。
――あん？
ロイズの目が、ぎょっと開かれる。
ガザリアっ！
えっ――？
その男から離れろ！
そいつは――
悪魔だっ！
男のほうから、ごうっと強い風が吹き上がる。
は、あははははっ――！
きゃあっ!?
男はガザリアの首をうしろから絞めつけ、
ようやく追いつきましたよ……先輩！
本来の姿に――悪魔の姿に変貌する。
途端、すさまじい魔力の波がロイズたちに押し寄せてくる！
あはははははは！
そしてこんにちは愚かな人間たち！
僕の名はミストア！
魔王城 悪魔契約審査室、新入悪魔のミストア！
愚かな先輩と違って正式に新入悪魔研修を終えた、立派な平社員だ！
まっとうなサラリーをもらって生計を立てている！
あ、あれってお兄ちゃんの……
……でも、『先輩』？
お兄ちゃんも新入悪魔だよね？
ああ……。
たしかにアレは同期だ。
だがなララミ、社会には、子どもには分からない複雑怪奇なルールってやつが存在するのさ。
複雑な……
そうだ！
同期入社だが、中途採用のオレは新卒採用のミストアよりも年上――
つまり！
つ、つまり？
同期入社のあいつらはオレのことを面白おかしく、
『ロイズ先輩（笑）』
と呼ぶのだ！
思ったより単純な理由！
そして妹的にはかなり切ない！（泣）
