第53話 悪魔的ワード
文字数 1,822文字
ロイズは聖櫃のふたを開けようと力を込めるが、重厚なそのふたはビクともしない。
ガザリアが代わって試みるが、やはり箱は開かない。
しぶしぶガザリアが差し出した剣をかざし、ロイズはその厚みを確かめる。
ロイズは剣先をふたのすき間に
止めようとガザリアがロイズにしがみついたそのとき、鈍い音がしてガザリアの愛剣は、まっぷたつに折れた。
床に両手を突きうなだれるガザリアが、ふと気づく。聖櫃の側面――ガザリアの目の先に、何やら文字が刻まれている。
ガザリアは真剣な表情で顔を寄せて、石造りの箱に刻まれたその文字を凝視する。
ロイズにその文字は解読できない。
だが――
これが何かは知っている――。
ガザリアはぱっと立ち上がり、聖櫃に手をかける。
首をかしげながらもロイズは従って、ガザリアとともに聖櫃を押す。はじめは微動だにする気配もなかったが、苦労して押し続けると、ようやく石の箱はかすかに動いた。
そして――
なにか、石の歯車でも噛み合うような音がしたあと、聖剣を納めた聖櫃は、ようやくその硬い殻を開く。
げっそりするロイズの眼前で、ふたが重々しく開いていく……。
そのとき。
ロイズたちが入ってきたのとは別の通路から声がした。
ロイズは聖櫃とガザリアを背に、歩み寄ってくるエンディを阻むように立つ。
〈貴妃之香〉――だったか?
あれの発動にはさすがにエンディのおっさんも気づくだろうが……ここは地下ダンジョン、窓もなければ、通路も、部屋も狭い。
垂れ流しになったあのフェロモンを――たっぷりと吸わされたな?
かつん――
靴音。
通路の闇から声がする――