第28話 悪魔的敗北
文字数 1,591文字
そのスタッフ専用フロアの、7Fへと続く階段。
立ちふさがる悪魔カジノのスタッフ。
服装こそ人間のものだが、明らかに使い魔。シャツもベストもぱんぱんである。
厳めしい表情の彼らのあいだを、
さりげなく通ろうとするが、当然のごとく行く手を阻まれる。
ロイズに陥落(?)したフィオナの手下ならばともかく、ミストアの配下であるだけに、融通の利かなそうな2人のスタッフ――もとい、2匹の使い魔だ。
――ならば、押し通るしかない。
ロイズは両手の手のひらに、小さな黒い渦を発生させる。彼の根源魔法――フィオナを打ち破った『怠惰』の魔法だ。
無造作に前へ出るロイズを止めようと、スタッフの使い魔たちが腕を伸ばす。
ロイズは緩慢ともいえる動きでその腕をかいくぐり、それぞれの胸と脇腹に手のひらを押し当てる。
たったそれだけで屈強な使い魔たちはよろめき、へなへなと座り込む。
ロイズの魔法〈怠惰の渦〉は、彼の属性である『怠惰』を押しつける恐ろしい魔法――
どんなに真面目な社魔であっても――いや、彼の言うとおり、真面目であるほど威力は絶大で、たとえばデスクワークにいそしむ社魔であってもヤル気を無くし、ただひたすらにエクセルの空白セルをドラッグ指定してみたり、営業の帰りであれば、社用車を遠回りして走らせ帰社時間を遅らせたりしてしまう!
『サボって遊んでやろう』というほど前向きでもなく、ただただ、ダラーっと過ごしてしまうのだ! 無駄! 恐ろしい!
階段をのぼり、7Fへ。
それまでのVIP向けやスタッフ用のフロアとは打って変わって、チンチンジャラジャラ騒がしい。
そう……ここは悪魔パチンコフロア!
もはや勇者と呼んでいいのかすら怪しい金髪剣士は、パチンコ台で前のめりになり、汗ばむ手でレバーを握り――その目をギンギンに血走らせている。
残った銀玉は次々と空振り、最下部の穴へと落ちて吸い込まれていく。
果たせるかな、ガザリアの手元の銀玉は、あっという間に台に飲み込まれ消えていく――。
スタッフの使い魔は、横目でちらりとロイズをうかがってから、
ガザリアにとっては天文学的数字である借金総額を聞いて、彼女は今にも泡を吹いて卒倒しそうだ。
椅子から立ち上がり、「うおお……!」と悶える彼女を、ロイズとスタッフはじっくりと見守る。
そして同時に、こう言った。
ガザリアはパチンコフロアの床にくずおれた。