第49話 悪魔的結成

文字数 2,112文字

くっ、あいつ……。


巨大迷路へと吸い込まれるように駆けていったレニをララミが追っていくが、しかしあの調子ではすぐに捕まえられそうにはない……。


おい、どうするよ兄ちゃん。俺たちはこのまま遺跡探索に発(た)つが……アンタはお仲間を待つかい?
オレは遺跡にも、そこの裏切り者にも興味はないが――
…………!
まずはおっさん。
ん?
その『兄ちゃん』ってのやめろ。オレはあんたの兄じゃない。
はは、そりゃそうだな。どっちかと言えばオレのほうが兄貴だしな。


じゃあロイズ、俺のことは『エンディの兄貴』って呼んでもいいぞ?

…………。
シノゥ、さっさと行きましょう。あんな冷血ツリ目もやし野郎は置いておいて。
うっせぇこの防御力ゼロ女。
なっ!? わ、私のどこが防御力ゼロなのよ!
おまえ、左の脇腹にほくろがあるだろ。乳のすぐ下。
っ!??
寝相悪いからな。いつもあちこちはだけて(、、、、)るんだよ。防御力皆無。
そうですね、夜の防御力はゼロですね。……ロイズさん知ってます? 彼女、右のふとももにもセクシーな――
んなっ!? 何なのよあんたらそろって!!
み、みなさん、イチャイチャするのはいいんすけど……。
はっは、そうだぞ、奥太郎くんの言う通りだ。


ロイズはともかく、シノゥ、きみには報酬の前払いもあるんだ。そろそろ働いてもらわないと困る。

承知しておりますわ。

では奥太郎、ガザリア、ロイズさん、行きましょうか。

おい、なんでオレまで――
私の目的は、遺跡の奥にあるという聖剣ただひとつ――というより、その聖剣を入手するために商会に雇われた身。


ロイズさんが手伝って頂けるのなら報酬も山分け。それに……エンディさん。契約では、遺跡内で発見した宝は頂戴してもよいのですよね?

おう、一応は商会のチェックを受けてもらうが、ごく普通の宝石、宝物のたぐいなら発見者のものになる。それが条件だ。
どうです?

ロイズさんにとっても悪い話ではないのでは? こちらにはトラップ崩しの専門家であるエンディさん、優秀な盾である奥太郎もついています。ガザリアさんも含めて、ダンジョン攻略という視点ではあなたのパーティーよりずっと優秀――楽ができる、と思いますが?

―――ふん、まあな。
よし分かった。

オレは何もしない。疲れたらそこのオークがオレを担いでいく。オークのごつごつした肌が辛くなったらガザリアが胸を揉ませる。で、見つけた宝はオレのもの――


この条件でいいならほんの少し力を貸してやらんでもない。

ええ、構いません。
か、構うわよ!?

いま変な条件入ってなかった?!!

そうと決まれば出発だ。

よし、行くぞ!

ちょ、ちょっとーー!?


遺跡の入り口に、ガザリアの叫び声がこだました。


 ■ ■ ■


うおっ!?


狭い遺跡の通路には、侵入者を阻むトラップが無数に仕掛けられていた。触れると毒霧を吹き出す壁、踏み込めば槍が突きだしてくる石の床――。


おっと、その宝箱はやめといたほうがいいぞ。
な、なぜですかい?
それは宝箱に擬態している『足舐め』だ。不用意に近づくと取りつかれて、笑い死ぬまで足の裏を舐められ続ける。どんなに頑丈なブーツを履いてたって無駄さ。その触手――というか舌だな。舌でブーツを脱がせて、執拗に舐め回す。


こんな風に――


エンディは腰に装着していた鞭(むち)を取り出し、宝箱に向けて振るう。


と、途端に宝箱は大口を開け(、、、、、)、三つ叉に分かれた赤い舌をべろんべろんと振り回す。……なるほど、あの舌に舐められ続ければ悶絶は必至だろう。


う、うおお……!

裸足の自分には脅威のモンスターっす……。

ちっ。エンディ、あんた時間はあったんだろ? こんな罠やモンスター、先に入って解除しとけよな。
そいつぁ意味ねーな。

この遺跡はトラップを自動生成するんだ。一度壊してもトラップは再生するし、入るたびにその位置も変わる。

それって――
ええ、随分と高度な魔術文明がつくった遺跡、ということになるのでしょうね。
永続する魔法陣か。

しかし、これだけ広い遺跡をカバーするとなると、どこかに膨大な魔力を蓄えているってことになるが……。

もしかして――聖剣の?
おそらくはそうだろうな。遺跡の奥にあるとされている、かつて失われたはずの聖櫃(せいひつ)――ロストアーク


聖剣を収めたとされるその箱が、心臓の役割を果たして遺跡中に魔力を供給している……俺はそう見てるね。

ほう。

それなら聖剣を手に入れて喪失の聖櫃(ロストアーク)を無効化すれば、帰りは楽ちんってわけだ。宝も探し放題だな。

そうね。聖剣は手に入る、ボーナスも手に入る。


――ほら、ダンジョンに潜って正解だったでしょ?

まあな。そこだけは認めてやるよ――
ふふん、これも私のおかげね!
なんでそうなるんだよ。でもまあ、お色気ボケ要員にしては役に立ったんじゃないか?
ひど! まったくアンタってどうしていつもそう――


と、いつの間にかいつもの調子で応酬していた2人は、はたと気づくと、不機嫌な顔をつくり、顔をそむけてしまう。


はあ、なんか面倒くさい人たちっすねぇ……。
はっは、いいじゃないか青春青春。

おじさんまぶしいぜ。

…………。


若干の不安をはらみつつ、探索パーティーはさらに遺跡の奥深くへと進んでいった……。

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登場人物紹介

ロイズ

不労所得をこよなく愛する悪魔。今は仕方なく勤め人に身をやつしている。
属性:怠惰

ララミ

ロイズの妹。非悪魔的思考をつかさどる悪魔。兄とは正反対で品行方正。
属性:色欲

ララミ(人間界バージョン)

非悪魔的なルックスで兄を困らせる。
そうび:出刃包丁

ガザリア

ロイズとともに選ばれた勇者の1人で、旧王家の末裔。驚異の胸囲を持つ17歳。
属性:傲慢

レニ

すえは大魔法使いとウワサされる少女。誰がウワサしているのかは知らない。実は人肌が恋しくて仕方がない。
属性:暴食

シェリー

ロイズの上司。悪魔的勤勉さでもって、若くして管理職にのし上がった有能な悪魔。
属性:強欲

魔王

部下を地獄の業火で焼き尽くすのが趣味。でも夜はM。
属性:??

ゴラザイアス

魔王の秘書。低級モンスターだが、その爪は一撃で人間の頭部を砕くことができる。しかし背が低いので頭部に届いたことはない。

使い魔(ヘビ)

残業が好き。

シノゥ

エルフ族の勇者。もと踊り子らしいが……?

属性:??

エンディ・ローンズ

もとトレジャーハンター。たぶん蛇とか苦手。

奥太郎

健全なオーク。同族からは知能派美男子と呼ばれる人気者。じつは簿記2級のスゴ腕。

カイト

温泉街のアルバイター。人を探している。

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