第52話 悪魔的真相

文字数 2,529文字

シノゥたちと分断されたガザリアは、ロイズを伴って暗く細い通路を進む。ひと1人がやっと通れるほどのその脇道には、さいわいなことにトラップは少ないようだった。


ガザリアの背後を、ロイズが不平を漏らしながらついてくる。


もう、そんなペースじゃいつまで経っても合流できないわよ!
……つってもなぁ。

目立った宝もないし、走らされるしで、オレのテンションは最低ラインだぞ。

聖剣があるでしょ、聖剣が。
喪失の聖櫃(ロストアーク)に納められた聖剣WLB……ねぇ。どんな聖剣なんだ?
え? さあ……
知らねーのかよ。
『聖剣』って言うんだからすごいんでしょ。きっと王家の末裔である私にふさわしい剣よ。


属性的に……悪魔(あなた)にも効果覿面(てきめん)なんじゃない?

まあ、ものによるな。
ふうん。


気軽に話しながら、そういえば家出ならぬ『脱パーティー』中であることを思いだし、ガザリアは口をつぐむ。


どうにも、ロイズを前にするといつもの調子に戻ってしまう。


…………。


きっとワーバ遺跡まで追って来たのも、ララミやレニに押し切られてのことだろう。


そう、この男はガザリアのことを何とも思ってなく、どころかその好意に対して憐れみを感じるような冷めた男なのだ。


フラれるのは仕方がない。だが、それにしても言い方というものがあるだろう。あれだけ生死を共にしてきた仲間だと言うのに。かりそめであっても、一度は婚約までしたというのに……


と、宿でのすれ違いを知らぬガザリアはそう思う。


おい。
な、なに……?
あのエルフ、シノゥについて教えろ。
??

あなたにしては珍しい――そんなにタイプなの?

ちげーよ。さっきの『魅了』のワザだ。
ああ……シノゥの魔法?
魔法、か……。あれを魔法と呼ぶのかは微妙なところだな。
どういうこと?
あれは魔法と呼ぶには剥き出しだ。まるで魔力そのもの、いっさい手を加えていないナマの魔力……。
なのにあの威力だからな――根源魔法レベルの。ああ、そうか……調整弁……。
なにぶつぶつ言ってるのよ?


ガザリアは足を止め、ロイズを振り向く。ロイズも通路で立ち止まり、指をあごに当て、珍しく考え込んでいる。


ねえ、前から思ってたんだけど、『根源魔法』ってなんなの?
ああん?

……ああ、あれは魔法であって魔法でないというか、いや、あれこそが魔法というべきか。

??
人間が普段使う魔法――【フレア】だの【サンダー】っつーのは、魔力を『同じように加工して』誰でも使えるようにしたものだ。
根源魔法は違うの?
その呼び名自体も後付けなんだが……


もともと魔法は、ごく一部の限られた者にしか扱えなかった。人間はもちろん、下級の天使や悪魔でさえな。

根源魔法を使えるのは、ある一定以上の魔力の持ち主。しかも、強い『根源』を持った者だけだ。
『根源』――
そいつの根っこにあるものだ。


欲望、本能、本質――その者の属性を決定づける『何か』。その根源の強靱さと、それを表出させられるだけの技術、あるいは才能が必要だ。

欲望を表に出して……形にするには、大量の魔力が必要?
まあ、そういうことだな。


だから使えたとしても、使用者によってまったく異なった形になるし――何より、疲れる。

前に戦った悪魔たち、あのミストアたちも、まだ根源魔法は使えない?
ああ、恐らくな。オレのような天才肌は一握りなんだ。
…………。
それはともかく。
ともかくじゃねぇよ。
シノゥの使う〈貴妃之香〉も、根源魔法だって言うの?
――あれをそう呼んでいいのかはともかく、な。
なにか、違うの?
オーク野郎に背負われながら、あの女を背後からじっくりたっぷり観察して分かったことだが――
キモい。
あいつは『おもらし』している。
は、はい!?
魔力……というよりフェロモン……。


あいつの魔力にはそれ自体に魅了の効果があるのかもしれない。しかも、生意気なエルフだけあって、その魔力量がハンパない。本人が意識しなくても常に漏れ出ている状態だ。

それって、すぐに魔力がなくなっちゃうんじゃ――
だからあの杖で調整してるんだろうよ。漏れ出る魔力を最小限に。そうでもしないとすぐにミイラだ。
……そういえばシノゥ、小さい頃は病弱だったって言ってたかも……。
まだうまく調整できなかったんだろうな。


それに――

それに?
さっきも言っただろ、あいつの魔力には『魅了』の効果がある――
それって……漏れ出た魔力が、まわりの人を?
魔性のロリエルフだったんだろうよ。


周囲を無差別に魅了する――効果から見るに、男女も種族も問わないようだしな。ふん、人望どころの話じゃない。とんでもない女王様だ。

…………。

私、シノゥと会ったのは街道沿いのキャンプでだった。彼女たち、たき火を囲んで、みんなから食べ物を分けてもらってて――

貢がせてた、が正しいだろうな。
私がお腹空かせてるのを知ると、シノゥはご飯食べさせてくれて――
……で? 気づいたら?
う、あ、朝になってて――テントの中で一緒に寝てて……
なるほど。食われちまったか。
ち、違うってば!

そういうのはなかったから!

ふん、どうだか。

この間も『ドロドロのぐちゃぐちゃ』になってたんだろ?

だからそれも誤解―――!
………ロイズ、やけにその件にこだわるわね?
は? 別に、こだわってねぇよ……。

(もしかして――妬いてる?)


口に出したら思いっきり否定されそうだったので、ガザリアは言葉を呑み込んだ。代わりに、


奥太郎が『ドロドロ』って言ったのは、チーズふょンデュのことよ。
あ?
間違った、チーズフォンデュ


私の歓迎会でチーズフォンデュを作ってくれたの、奥太郎が。こう、野菜つけて、パクって食べるんだけど、チーズ垂らしてみんなドロドロになっちゃって。

…………あっそ。
だから!

私たちは健全なパーティーよ。

たしかに奥太郎は見た目がごついし、シノゥには魅了の力があるのかもしれないけど――変なことにはなってないから。
……ふうん。
そういうわけだから、シノゥのこともそんなに気にしなくていいし。ね、ロイズ?
は? だから別に気にしてねーって……。
って、何をにやにやしてんだよ。
ふふっ、別に何でも。


さあ、先を急ぎましょ!

…………何なんだよ、ったく。


相変わらずぶつくさ言いながらも、ロイズは幾分か足取り軽くガザリアのうしろをついてくるのだった。


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登場人物紹介

ロイズ

不労所得をこよなく愛する悪魔。今は仕方なく勤め人に身をやつしている。
属性:怠惰

ララミ

ロイズの妹。非悪魔的思考をつかさどる悪魔。兄とは正反対で品行方正。
属性:色欲

ララミ(人間界バージョン)

非悪魔的なルックスで兄を困らせる。
そうび:出刃包丁

ガザリア

ロイズとともに選ばれた勇者の1人で、旧王家の末裔。驚異の胸囲を持つ17歳。
属性:傲慢

レニ

すえは大魔法使いとウワサされる少女。誰がウワサしているのかは知らない。実は人肌が恋しくて仕方がない。
属性:暴食

シェリー

ロイズの上司。悪魔的勤勉さでもって、若くして管理職にのし上がった有能な悪魔。
属性:強欲

魔王

部下を地獄の業火で焼き尽くすのが趣味。でも夜はM。
属性:??

ゴラザイアス

魔王の秘書。低級モンスターだが、その爪は一撃で人間の頭部を砕くことができる。しかし背が低いので頭部に届いたことはない。

使い魔(ヘビ)

残業が好き。

シノゥ

エルフ族の勇者。もと踊り子らしいが……?

属性:??

エンディ・ローンズ

もとトレジャーハンター。たぶん蛇とか苦手。

奥太郎

健全なオーク。同族からは知能派美男子と呼ばれる人気者。じつは簿記2級のスゴ腕。

カイト

温泉街のアルバイター。人を探している。

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