第60話 悪魔的客引き
文字数 2,929文字
レニちゃんは、クイズ大会で手に入れた賞品を独り占めして、一足先にこのカララ温泉に着いているはずです。
お兄ちゃんは、レニちゃんから賞品を分捕るんだって息巻いていますが、実はレニちゃんが心配なのだと思います。ツンデレです。
今回も、簡単にレニちゃんと合流できるか分かりません……。
最近のお兄ちゃんはガザリアさんとも仲良くなって、家にいた頃より活発的な感じ！
健康的なのは良いことだけど、だらしないお兄ちゃんを世話するのも私のライフワークだったので微妙な気分です！
なので、カララ温泉街に着いたら、手を繋いでぶらぶら歩いたり、一緒にお、お風呂に入ったりして……
お布団に、枕はふ・た・つ・的な…………はぁああっ！！！
ダメっ、ダメだよお兄ちゃん！ 私の顔に、お兄ちゃんの、は、鼻ちょうちんが……っ！！
とかとか！
ああっ、はしたない私っ！
こんなひわいな妄想なんてっ――！！！
卑猥？
そ、それならそうと、もっと早く言ってください！ 心の準備が！
深呼吸でもして落ち着いたら？
あなたも、よくそんなところで眠れるわね？
いや、眠れてねーよ。こんな馬車の長椅子で……。
くそっ、レニのやつ、ちゃっかりとクッションだけ持って行きやがって。
あー、腰がいてぇ。
だってさ。
――まあいいや。
よし、さっさと宿を探してこいガザリア。
ふかふかの布団でオレを休ませてくれ。
っていうか、まずはその人の上から
なんか
……はっ!!?
おや？
これはこれは上の人！ おはようございます！！
気持ち悪っ。
ふう。
ほこりまみれだね。
まだならぜひ！ 当ホテルへ！
さてはアレか？ 自分を踏ませておいて、その罪悪感で客を引こうっていう――
ひと晩じゅう道に立って働いていたら、ついウトウトしちゃってたなぁ！ いかんいかん！
無視していくぞ。
――ほら、こんなにほっぺたまで汚れちゃって。
そんな綺麗な、レースの付いたハンカチーフで拭いてくれるだなんて……なんと優しい。
あなたは女神さま！！？
その溢れる気品！ ただよう慈愛！！
女神でないなら、きっとどこぞの王女さまに違いない！！
この人、見る目のある、とっても良い人だわ！！
おまえの頭がどうかしてるんだよ。
その息の合った掛け合い……よほど仲むつまじい、相思相愛のカップルとお見受けした！！
回るベッドに泡の出るお風呂、各種コスプレグッズもたっぷり取りそろえております！！
地下牢を模した部屋もありますから……オークと女騎士の格好でレッツパーティー！ とかとか、アンケートでも、もっとも燃えると評判のシチュエーションですよ！ お二人で泊まればエキサイティングすること間違いなし！ なホテルです！！
それに、そもそも私たち、カップルなんかじゃ……！
設計したやつアホなのか？
恋人たちに人気で、予約で一杯なほど！
今日は……うん、まだ早い時間帯なので空いてるはずです！ なんなら、２時間だけの休憩でも――
このウサギのぬいぐるみ……ふらふら飛んで近づいて……おや、背後を取られたぞ？
で、出刃包丁!??
いやもう、３人っていうか、最愛の兄妹が１組と、お邪魔虫が１匹っていう取り合わせなんだけど……うふふ。
そ、それは失礼……！
では……兄妹で１室、お連れさんを１室、という部屋割りのほうが良かったかな？？
この人、理解のある、とっても素晴らしい人間だよ！ 分かってる系の男子だったよ！
謝って！ 踏んづけたこと、謝ってあげて！？
兄妹はいいものだよ。
実は、オレも妹を探して旅に出たものの、食うに困って行き倒れて……それで各地でアルバイトをして生き延びていて――
うう、なんて感動的なお話……。
妹と離ればなれだなんて、かわいそうだよ！！
分かってくれるかウサギさん！！
一緒に探して欲しい！！
妹は……
武闘家なんだ！
