43.森と湖の美しいフィンランド

文字数 1,445文字

平也が山中湖に行ってしまった後のある春の日、代智が仕事から帰ってくると、なんだか落ち着かない様子でした。
「おい、ちょっと相談なんだけど」
「何?」
「俺、この夏に一か月の長期出張になったんだ。行先はフィンランド、新型の印刷機導入の準備と研修だ」
「あらっ、随分長いこと」
「あ~。ところで、お前も一緒に来ない?」
「えー! あなたにしては、珍しい発言ね。どういうこと?」
「実は、部長の入れ知恵なんだ。原則として、お前の飛行機代は出ない。だけど、行ってしまえば、ホテル代は部屋あたりなんで、一人でも二人でも変わらない。それに、ここに居ようが、フィンランドに居ようが、食費はかかる。そして、今回支給の現地生活補助費で、お前の飛行機代くらいカバーできるんだよ。とまぁ、そういう具合だよ。部長も同様の経験があると言っていた。考えようによっては、長年の勤続祝いみたいなものかな」
「嘘みたい! それじゃ、行かないわけには行かないわね。平也も山中湖へ行ってしまったし、ちょうどいいわ。これは、新婚旅行の香港以来の海外旅行ね。え~と、あの時以来の二人だけの旅行じゃない?」
「うん。じゃ、決まった。滞在先はサボンリンナと言う、森と湖の美しい所らしい。ヘルシンキから小型機で一時間もかからない所だそうだ。ぼちぼち準備を始めてくれるか?」
「分かりました。張り切ってやります」

そして、私はほんとに張り切りました。成田出発後は、ヘルシンキで飛行機を乗り継ぎ、慣れない長旅の末、やっとサボンリンナのホテルに着きました。その時は、二人とも相当に疲れていましたが、代智の後、私もさっとシャワーを浴びました。内心、代智はもう寝入ってしまったかと心配していたのですが、小さな冷蔵庫にあった缶ビールを飲み終わるところでした。そして、私は、この時のために用意しておいた小道具を使いました。
「おっ、お前、何それ!?」
「どう? 私には似合わない?」
「そんな。ちょっと、びっくりしただけだよ」
私は、真っ黒の紐のようなブラとパンティを買ってきたのです。どうやら、私の思惑はうまくいったようでした。
「あなた、結婚したころは、毎日私を抱いてくれたわよね。あの頃が懐かしいわ」
「そうだったな。両家を行ったり来たりの変な新婚生活だったなぁ。まぁ、言ってしまえば、肉欲結婚だったかな?」
「もう!」
「なんでもいいから、早く来いよ!」
それで、その夜は、物凄く良く眠ることが出来ました。

サボンリンナは、話に聞いた通り、森と湖に囲まれた美しい町でした。まさに、おとぎ話の世界です。そして、その時は夏だったので、気候も良く、私は何と幸運だったのだろうと思いました。到着後、数日の休息日があったので、代智とバスに乗って、少し離れた所にある、フィンランドならではの森林博物館を訪ねたり、貸自転車に乗ったり、休暇に相応しい日を過ごしました。新聞配達の仕事以外で自転車に乗ったのは、後にも先にも、この時だけでした。

その後の平日は、代智は訪問先の会社へ行き、私は自分の好きなように時間を過ごせます。サボンリンナの町はとっても小さいので、端から端まで簡単に歩くことが出来ます。一人で、湖に突き出した古いお城の方へ行ったり、港の方へ行ったり、好き勝手な毎日を過ごしました。お昼には港の所にあるレストランでランチを食べたり、お店でサンドイッチを買って、公園で食べたりしました。食べ物を含めて、フィンランドの事は全然知らなかったのですが、魚の酢漬けや様々なキノコがとても美味しいのです。
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