4.稀に見る観光客(前)

文字数 1,516文字

私が小学校五年生の時です。中木にはまだ観光客などやって来ない時代でした。それでも、夏休みのある日、四人家族がやって来たのです。この家族の車は、当時としては珍しいワンボックスカーを改造したキャンピングカーでした。その家族は中木の透き通った海に感激したようで、港のはずれの空き地にその水色のキャンピングカーを停めて、遊んでいくようでした。

この光景は、集落の子供たちにとっては、それこそ、難破船が漂着したかのような強烈な印象を与えました。みんな、家の窓から恐る恐る覗いていました。その後、キャンピングカーの中から出てきたのは、両親の他に、小学校に入るか入らないかの小さな男の子と、なんと、私と同年代くらいの男の子もいました。そして、お兄さんの方は、水中メガネとシュノーケルをつけると、一目散に海に入って行きました。

さて、出てきたのが普通の家族だと分かると、集落の子供たちは、今度は街にサーカスでも来たような気分でした。年少の子供たちはキャンピングカーの方へ近づいて行き、傍から様子を見ています。ただ、集落で唯一の高校生は、出てきた子供達が小学生程度と分かると興味を無くしたようでした。私はと言えば、海に入った同年代の男の子が気になり始めました。私は、一人遊びが過ぎて、社交性の乏しい子供だったのですが、この時は、もう、何も考えずに、すぐにその男の子の後を追って海に入りました。

泳いでいた男の子は、私の事に気が付くと、初めはびっくりした様子でしたが、すぐに一緒に泳ぎ始めました。水の中では話が通じずに、手まねでどっちへ行こうとか合図を交わしました。初め、男の子は、両親に言われていたようで、両親の見える範囲の港の中だけに留まっていました。一度海から出た時に、私が、港のすぐ外のトガイ浜のことを言うと、男の子は両親の所へ行って許しを得てきました。それで、二人で泳いで、港からは見えないトガイ浜の方へ行きました。

その内に、男の子は水中メガネしかない私を哀れに思ったのか、シュノーケルと足ヒレを借してくれました。水中を覗いたままで息ができるし、ボートのようなスピードで進めるのは楽しくて仕方がありませんでした。ところが、丁度息をしようとした時に、近くを漁船が通り、船波がシュノーケルの先端から中に入ってしまいました。それで、私は空気の代わりに塩水を吸ってしまったのです。海水が気管に入ったのは初めての経験で、こんなに苦しいものとは知りませんでした。驚いて、浜に上がると、男の子もすぐに来て、「大丈夫? 僕もなったことあるよ。苦しいよね。でも、すぐ治るよ」と言ってくれました。そして、私の背中をさすってくれたのです。確かに嬉しかったのですが、私は男の子にそんなことしてもらったことがなく、あまりの緊張で逃げだしたくなりました。そうしたら、急に膀胱が緩んでしまったのです。今度は、恥ずかしさで、苦しさを忘れてしまう程でした。すると、男の子が言いました。
「よっぽど苦しかったんだね。気にしないでいいよ。自然なことだよ。落ち着いたら、また海に入ろうね」
と言ってくれました。実は苦しくてお漏らしをしたのではありませんでしたが、特に言い訳することもないと思いました。私が落ち着くと、男と子は、「僕もおしっこしてくる」と言うと、岩だらけの浜の端まで行き、紺色の海パンを降ろしておしっこをしました。真っ白な男の子のお尻を見て、私は、内心、「その反対側も見たい」と思ったものです。男の子に背中をさすられたくらいで驚いてしまうし、全く男の子の体という物を見たことがなく、好奇心が芽生えていたことは確かです。仕方なく、渚に打ち寄せる波を見て気を紛らわせようとしました。
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