47.未咲の話(前)

文字数 1,662文字

さて、未咲の話は、次のようなものでした。

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あたしは、母と、すごく小さなマンションに住んでいた。あたしが小学生の頃、お金が足りなくなって、母は夜の仕事を始めた。夕方から夜中まで家に居ないことが多かった。そんな時、あたしはインスタントラーメンで夕飯を済まし、テレビばかり見ていた。そしてある日、あたしがテレビを見ている時に、急に母が帰って来た。

あわてて入ってきた母は、まず自分の布団を押入れから出して、「大事な人を連れてきたから、ここで音を出さずにいて」と言って、今度はあたしを押入れの中に押し込めた。あたしは何が何だか分からず、言われた通り、真っ暗らな押入れの中で黙っていた。すると、今度は、母が誰かを連れて入ってきて、すぐに二人が変な声を出し始めた。とてもじゃないけど、耐えられなかった。それが、長いこと続いた。あたしは頭を布団の中に突っ込んで聞かないようにした。

それからどのくらい時間が経ったか、押し込められる前にトイレに行く時間もなかったので、段々がまんが出来なくなってきた。それで、どうしようもなくて、布団の中でもらしてしまった。そして、いつの間にか、そのまま眠っていた。

その時から、あたしは完全に変わってしまったと思う。何もやる気がなくて、何もかも避けるようになった。中学の時、担任の先生があたしの様子を気にかけてくれた。父親の居なかったあたしには、それが、とても優しく思えた。ある日の放課後、あたしが「家に帰りたくない」と言ったのを聞いて、先生はあたしを自分のアパートに連れて行った。そして、夕飯を作ってくれた。あたしは初めて父親と二人で食事をしているような気分になった。そして、あたしのほっぺたを涙が流れるのを見て、先生はあたしの所へ来て、そっと抱いてくれた。今度は、あたしが先生に強く抱き着いた。そして、いつの間にか、いつの間にか......、あたしの知らなかった世界に入っていった。

夜遅くなったので、先生はあたしをマンションまで送って行ってくれた。当然、母はまだ帰っていなかった。それからは、毎日、放課後、夜まで先生のアパートで過ごすようになった。

そんなことが暫く続いていたが、ある日、学校へ行くと様子が違った。あたしは会議室に連れて行かれた。そこへ、まだ家で寝ていたと思われる母も呼び出された。どうやら、あたしと先生が夜一緒に歩いているところを、塾の帰りの同級生が見かけて、親に話し、それが学校に伝わったらしい。先生はけいさつの取り調べを受け、すぐに連れて行かれた。あたしは、退学となった。

その後、あたしは私立中学に転入を許されたが、結局、そこへは全く行かなかった。毎日のように30分ほど歩いて多摩川の河原へ行き、そこで知り合った男と茂みの中でタバコと麻薬を吸った。時には、家のお金を持ち出して、男に渡した。それが、母に知れて、ひどく叱られた。あたしはもう、家にいても仕方がないと思った。それで、結局、家出した。

1時間半ほど歩いて吉祥まで行った。夜になり、どこに行くというあてもなく、ゲームセンターの片隅でうずくまっていた。そこで、四人組の大学生に目を付けられ、彼らの共同アパートに連れて行かれ、そこに泊まらせてもらった。その代わり、あたしは、その四人のどれいになった。毎夜、四人の間でたらい回しにされた。食事の用意をしたり、せんたくをさせられた。辛くなって、一度逃げ出した。

歩いて母のマンションまで戻った時、あたしの知らない男がマンションに入っていくのを見た。あたしにはそれが耐えられなくて、結局、母の元には戻らずに、また、四人組の所へ引き返した。もう仕方がないとあきらめた。

その内に、その大学生たちは卒業して、共同アパートを引き払うことになった。それで、あたしもお払い箱になった。あたしは持ち物を入れたバックパックを一つ貰った。その時、大学生の一人が、哀れに思って、あたしに少しばかりお金をくれた。そして、その時までには、あたしは妊娠していることに気が付いていた。
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