45.更なる挑戦

文字数 1,388文字

さて、山中湖畔のリゾートホテルに就職した息子の平也からは、時々電話があります。話では、隣の忍野村の観光茶屋の娘と付き合っていると言う事でした。平也が居なくなって寂しくはなったのですが、平也なりに自分の人生を切り開こうとしているので、ほっとしました。

私はと言えば、フィンランドでの休暇でたっぷりと資金を蓄えて、新しいお買い物の事を考え始めていました。それで、その事を代智に打ち明けてみました。
「ねぇ、あなた、サボンリンナの公園で会ったメリさんのこと覚えてるでしょ? 里親の~」
「あぁ」
「私ねぇ、考えたんだけど......、私もやってみようかと思うんだけど」
「えっ、何を?」
「私も里親をやってみようかと思うんだけど」
「ん~......。それって、かなり大変じゃない?」
「うん。それは、分かっているつもり。ただ、私、フィンランドで十分休養させて頂いたし、メリさんの様子を見て、なんだか、頑張ってみたいのよ。平也も出て行ってしまったし、平也の部屋が使えるでしょ?」
「それは~、お前がやりたいんだったら、反対はしないけど。俺は、あまり手伝えないと思うけど。どうせ、平也の子育てさえ、ろくに手伝ってはいない訳だからな」
「うん。あなたは、いつも通りでいいのよ。賛成してくれるんだったら、私、しっかりやるから。でもね、あなたとの生活は、第一にするから」
「そうか。じゃ、どう言うことになるのか、分からないけど、任せるよ」

私はすぐに準備にかかりました。まず、里親の団体を探し、応募し、人物・家宅調査を経て、認可されてから、訓練を受けました。訓練が終わってから、何か月か経って、可能性のある里子との合同面接を受けることになり、代智と一緒に出かけました。担当の人が、高校生くらいの女の子を連れてきました。
「茶霞代智さん、入絵さん、こちらが赤待未咲さんです」
その子は、はっきり言って、私の期待しているような人ではありませんでした。私たちの事を眼の片隅で盗み見るような様子で、一目で、他人を信用しないような人柄だと感じました。その瞬間、果たして、この私に務まるだろうかと言う不安も生じました。恐らく、私は、フィンランドで、あの、何も知らないエーバが里親のメリさんに良くなついていることだけを目に浮かべていたのだと思います。

その後、相性その他の条件を詳細に調べてもらい、私たちは正式に未咲の里親になることが決まりました。未咲の情報について伝えられた事は、以下の通りです。父親は出生前に失踪。以後、母子生活。中学の時に家出し、点々とする。家出後、母親は暴行に起因する脳障害で死亡。丁度その頃、父親の消息が分かるが、間もなく交通事故死。他に身寄りはない。最終的には、関西の暴力団に監禁されていたところを、警察の奇襲捜査で、保護され、出身地の東京に戻され、児童養護施設に収容される。暴力団の内情を知っているため、身元を保護する必要があり、氏名を変更。確かに、私には想像出来ないような過酷な子供時代を過ごしていたのです。最終的に未咲を引き取りに行った時、未咲が連れて来られる直前に、そこに居合わせた人が意味ありげに言いました。
「この子は、かなり大変かもしれませんよ。大丈夫ですか?」
この時点でそんなことを言われても、どうしようもありません。私の不安は強まりましたが、「頑張ります」としか言いようがありませんでした。
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