12.大学生になったとは言っても

文字数 1,218文字

私の入学準備はなんとかうまくいった様で、無事、希望の夜間大学に入れました。それで、東京での二年目からは、大学生の端くれとなることが出来ました。大学生と言っても、普通の人の仕事の終る時間から、真っ暗になるまで授業に出るのは、あまり愉快な事ではありませんでした。

二部の学生のほとんどは、昼間、普通の仕事をしている訳です。真面目な人も多いようで、多くの人は必死に授業を聞いています。それでも、中には疲労と寝不足のせいでしょうか、眠ってしまう人もいます。また、ほとんどは男子で、ちょっと気を惹かれるような人もいるのですが、皆、授業の始まるギリギリに来て、授業が終わるや否や家路についてしまいます。初めの頃は、大学に行ったら少しはロマンスがあるかと期待したのですが、そういうことはありませんでした。そんな時には優飛君の事を思い浮かべては、大学での寂しさをこらえていました。

そして、一番辛かったのは、よく一部の学生たちを見受ける事です。夕方にクラブ活動が終わって、こぞって、楽しそうにどこかへ行く様子を見るのです。一緒に夕食をしたり、飲みにでも行くのかなぁと、一人寂しい思いに浸りました。特に、男女で活動しているクラブの愉快な笑い声は、胸に刺さりました。

この頃、ディズニーのアニメ、『リトル・マーメイド』が日本公開となり、見たくて仕方ありませんでした。ただ、一人で行くのも惨めだと思い、あまり乗り気ではなかった優飛君を無理やり誘って、一緒に行ってもらいました。話の筋は、私の覚えていた子供用の本に載っていた物と似たり寄ったりのハッピーエンドでした。私は、横で退屈している優飛君を勝手に王子様に仕立てて、一人で夢を見ていたのです。

そんな、束の間の楽しみ以外は、本題に集中しなければなりませんでした。その頃までには、私には、理科の教師になるという使命があると確信していました。それで、学業に一生懸命にならねば、と自分を励ましたのです。

まずは、苦手な一般教養をこなさなければなりませんでした。その後は、教育原理、教育心理学、青少年心理学、理科教育法と、兎に角決められた通りに取っていきました。正直言って、いつも心の片隅には、大学で学んでいることがほんとに役に立つのだろうかという気持ちがありました。とは言っても、授業中聞く話の中には、面白いと思うこともありました。

確か、理科教育法の時間だったと思ます。私たちは、「理解する」ことを「分かる」とも言いますよね。そして、この漢字、「分」は、「分ける」、つまり「分割する」という場合にも使うことがあります。これは、元々、この漢字の作られた中国で、「分かる」ということの意味が、実は「分ける」事と同じだと言う考えから来ていると聞いたのです。これは、まさに現代科学の基本姿勢と一致しているなぁと感心しました。つまり、物事を理解するには分析の手法が不可欠であるということです。と、まぁ、こんな事に感心していたのです。
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