第54話

文字数 415文字

 こうした会話は次第に勢いを増していく。

「どんな子になると思う?」

 父の質問は未来志向だと云えなくもないが大抵茫漠(ぼうばく)である。

「そうねぇ、あなた似なんじゃない?」

 乗らなければいいのに母も空想が過ぎた。

「だったらやっぱり男の子かな、元気な」

 どうしても男の子に帰結したがる父を、母はこれまでも何度か(いさ)めてきたが、一旦性別の話になると父の話は止まらない。

 しかしこの時は勢いづいた父の長広舌(ちょうこうぜつ)を母は(さえぎ)らず黙って聞いていた。

 話題が(もっぱ)ら自分たちの子供に向けられているなら聞くに耐えぬことではないし、父が男の子を望んでいるように自分も密かに男の子を望んでいたからだ。

 前々から云っているが母はそれをもう薄々わかっていたので、僕から正体を明かしてあげたいのだけれど、それには及ばない。

 時間の問題だからだ。

 やがてその期待は実現する。

 何を於いても二人の期待が外れないことを僕だけが確証を持って知っているこの特権は堪らぬ。胎児ならではのものだ。
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