第63話

文字数 456文字

 ということで、前者の方で僕が提案するなら、静生(しずお)。いまの僕の境地に近いから。

 これから僕がどこに漂流していくのかわからないが、近くでは激した時代を生き果たしてきて今度の命を預かるのはこうした意味の先にあるのではないかと僕は感じている。

 幸いにも時流に逆らえない世でもなさそうだし、自分の裁量で、時代に翻弄(ほんろう)されることなく、変化に身を任せ、流されるのではなく、対処に追われるだけではなく、静かに娑婆で生きることの真意を問う。

 在命中は答えに行きつかないことは、わかりきっているのだが、放たれた僕がこれまで散々じたばたしてきた過去を上手に枠に収めて、はみ出さないで落ち着いてしっかり生きていけることを願っての名だ。

 それが静生(しずお)という名に込められている。

 字数十四画と五画。父の賛成はいただけそうにない。

 聴こえのよいりりしい響きでもないので母の賛成もいただけないだろう。

 きっとここにいる間だけの僕が僕に付けた自称になってしまうが、それでいいと思っている。

 胎児の間だけでも密かに僕の名は静生(しずお)ということにしておきたい。
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