第86話

文字数 308文字

 気がかりなのは、このままではまた母の身体が僕を堕(おろ)そうとするのではないかということ、

 (おろ)さなくても栄養が行き届かず僕は死産に至るか、

 或いは生まれても早世するかもしれないということ。

 しかしそれは僕の生きようとする原始的な倫理が許さない。

 不確かなことはあれど僕は生まれて魂を継がれなければならないから。

 母にも僕を無事に産む義務がある。

 すると僕には自然母を鼓舞する使命が附帯する。

 母を助けたい、畢竟(ひっきょう)(僕も助かりたい。

 僕は脚を蹴った。
 
 腕を伸ばした。

 狭いところで精一杯伸びをした。

 胎動にはもう慣れているはずの母は、

(ゆう)ちゃん、怒らないでよ」

 励ましのつもりの僕のダンスを正反対の意味に取っていた。
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