第65話

文字数 418文字

 母と僕は安定期というやつに入った。

 毎度この時期は胎児にとっても過ごしやすい。

 母のつわりも収まり、食欲も戻り、僕も母からのおいしい栄養を存分に戴いている。

 俗世で借りる僕の入れ物は日に日に(かさ)を増している。

 こうした肉体が安定している時にもこの人間という生き物はわざわざ幸福をすり減らすような真似をしたがる。

 見たくなくても僕には見えてしまうから父の愚かな行動をとても残念に思って見ていた。

 父の行動が露呈する以前から、僕にはすべてわかっていたからそれを突然の出来事とは思わなかったが、

 やっぱり犯してしまうのだなと父より範囲を広げて人間を総体として十把一絡(じっぱひとから)げに愚かな生き物だと捉えていた。

 子供が育成するとともに父は縛られる感覚を強くしていった。

 僕への慈愛と母へのラブを心に留めながらも一方で少しそれらを減らしてでも、縛られない自由な場所を求めていた。

 ただそれが安全な所かというと父の場合そうではなかったことが愚かしいのである。
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