第72話

文字数 434文字

 ところが僕が期待するほど人間は胎児の助言を汲み取れない。

 母への寛容と父への改心と叔母への謝罪を求めた僕の願いは母にも父にも、()してや離れている叔母にも届きはしなかった。
 
 ひび割れた関係性は、僕に云わせればめいめい反省が足りないからなのだが、自分都合でくっつこうとせず、当節一番容易い出口へと向かって行った。

 母が云い出し、父は当惑しつつも抗えず、母から一方的に離婚を迫った。

 爾今(じこん)の更なる大きな問題、即ち親権と汚れたお金の問題を背後に回して。

 父は黙るより他なかった。

 母は父との共同生活から()げ出し実家に身を寄せた。

 残された父も居たたまれず賃貸の集合住宅を出た。

 叔母は母と断絶して姿をくらました。

 僕は身体こそ母と共にしていたが、やるせない心の行き場を持て余していた。

 まさか幸福を信じて疑わなかったあの胎児初期から、こうも突然に生後の母子家庭を決定宣告されるとは想像だにしなかった。

 改めて、僕は幸せ下手な人間に生まれる因果を億劫(おっくう)に思わざるを得なかった。
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