第8話

文字数 293文字

 暖かい宇海(うみ)に、僕は囲まれている。

 さっき暗いと云ったけれどよく考えてみれば僕には何も見えていないのだから、

 暗いと云えるはずがない。

 暗いと云ったのは、始まりがどこかわからない過去から或いは持ち込んだ先入観のようなものが云わせたのだろうか。

 暗い意味すら僕には本来わかっていない。

 だけど感じはする。

 ここに差す明かりは僕がそのうち嫌というほど浴びるだろう痛々しい明かりとは違う。

 それを見越して僕が暗いと云ったならばここの意味では暗いは暗くない。

 囲まれている宇海(うみ)からは僕を明暗や雑音や吉凶から遮断してくれる絶対静が保証されている。

 これを楽しまなくてどうする、と僕はひとりごちた。
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