第45話

文字数 283文字

 母が竹内産婦人科を出た時、僕たちは晴々とした気持ちに変わっていた。

 僕に至っては、誰かに自分の存在が承認されて初めて娑婆の入り口切符を手にした気分だった。

 しかも、僕の誕生を望まぬ者はいまのところひとりとしていない。

 このことを当たり前だと思わず、この上ない幸せと、

 顎(あご)さえもまともにできていない僕だが幸福を噛み締めた。

 僕たちは母の胎内で繋がっている限り、同じような感情を持ち合わせることができる。

 そうだからこそ、僕は母のためにも幸せな気分でこの先もありたいと願い、

 母の穏やかな心臓の鼓動を聞こえない耳をすませて遥か先までの宇海(うみ)を僕も穏やかに眺めた。
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