第31話

文字数 243文字

 母が気づいたのは、霜枯れの透き通った朝のことだ。

 正確には僕の誕生から三十六日が経っていた。

 薄手の羽織りの小さな肩を小刻みに震わせながら彼女は便座に爪先を立てて座り、

 用意していた妊娠検査薬を股の間に恐る恐る伸ばした。

 的を外さないよう慎重に先っぽに尿をかけた。

 暫くして目を凝らしてみたら、小さな窓に薄らと青い線が浮かび上がっている。

 母は呟いた。

「できたかも」

 母の鼓動と脈打つ音が宇海(うみ)に津波のように押し寄せ振動として響き渡り、

 彼女の心がさんざめくのを僕は一番近くで見ている。
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