第64話

文字数 370文字

 さて母と父の論議であるが、父の提案した飛彩(ひいろ)は当然ながらあっけなく母(と僕)に却下されて没となり、

 母が提案していた凛太郎(りんたろう)だが、

 折しも悪いことにユーチューバーとかいうこの時代特有の不安定な職業に名の売れた者がいて、

 その者の名が凛太郎で、さらにこの凛太郎が女性を敵に回す発言を繰り返したことから仮想空間上で炎上し、母はその名を二度と口にすることはなかった。

 結局、僕の来世の名は、母の父、すなわち僕の祖父が付けてくれた雄吉(ゆうきち)と決まった。

 意見が割れて折り合えない母と父は名付け親の役目を祖父に頼んだのだ。

 この名を初めて聞いた時の母、

「時代錯誤なんだけどな」

 葛藤はあれど頼んだからには口に出せない母の心の声を僕だけは聞いていた。

 ただそれが一体誰の名であるか、その時僕は遠くのことのように放念していた。

 僕はここではまだ静生(しずお)だったからだ。
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