第40話

文字数 617文字

 一方で抱えていた消せない不安は、この子を(男の子であろうが女の子であろうが)自分の子宮が五体満足に育てていけるのだろうかといった、

 これまでのできにくかった辛い過去から生じうる茫漠(ぼうばく)たるものだった。

 それが母の悦びを抑えつけていた。

 母が僕の性別を感じ取れた理由、それを僕は母性であるとしか説明しようがない。

 実のところ僕も、人間の母であったことが何万回とあったためわかる。

 人間に限らず人間の呼び名でいうナウマンゾウもマンモスも他の星の二足歩行の生命体でも、

 お腹に単体しか抱えない命は、総じて繋がりが強く太いので、

 子供ができた時からその子に関するいろいろなことを母親は感じ取っている。

 僕の母も受胎した瞬間から僕の存在を感じ取っていた。

 だからあの日の朝に、妊娠検査薬を使った時にもう確信があった。

 生命の産声(うぶごえ)のようなものが母には聞こえたのだ。

 人間の母には大抵は皆、全部とはいわないが来し方流転が遥かであればあるほどそれを感じ取れるようになっている。

 命の有り難さを気の遠くなる漂流で知る者と知らぬ者があるというのも不思議なのだが、

 さっき云った過去の娑婆での暮らしぶりで感じ取れる領域や大きさが決まってくるらしい。

 幸い僕と母にはそれを感じられるところまで漂ってこられたのだと思う。

 僕は過去の流転からその強さを実感している。

 この母のもとに産まれて来られる自分の運命にあるかあらぬかの小さな身を震わせながら心から感謝した。
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