第22話

文字数 360文字

 さて、では僕の視界を僕以外の人間に移動させてみよう。

 さっき僕が受胎したことを、

 僕の母になろうこの宇海(うみ)で僕を守ってくれているこのひとも、

 母になろうひととまぐわい、

 いまは隣でいびきをかいているこのひとも、まだ知らない。

 まだ知らないが、僕は知っている。

 受胎したことをではない。

 このひとたちが僕の母と父になり、そうなることを彼らがずっと願っていたことを。

 つまり、僕は望まれて生まれてくる人間なのだ。

 そのことだけでも僕の来世が約束されている。

 母と父に愛されることを。

 この当たり前のような幸福を、僕は下賜される遥か以前に当たり前でもないことを知った。

 宇宙にはそんな生命はそう多くない。

 生まれることが或る流れのなかの一つ作業であり、

 宇宙の一郭を構成せしむる極小の運動に過ぎない。

 それが宇宙の常識である。
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