第77話

文字数 413文字

 運ばれた先で母と僕の命は物物しい装置や怪しい姿の人間たちに取り囲まれ台の上の人となった。

「いかんな、せめて母体だけでも助けなければ」

 遠くで聞こえる囁きの意味を、僕は母との早すぎる別離と理解した。

 傍目(はため)から見ていても痛そうな重そうな器具が母の剥き出しの乳房の辺りに押さえつけられ耳障りな音がする度に意識のない母の上半身が台から浮いた。

 長い漂流で僕は何度かそれまでになかった革新的なことで驚くことはあったが、

 例えば海から出て陸で暮らせるようになった時だとか、

 翼で空を飛べるようになった時だとか、

 孵化(ふか)せず生まれてすぐに乳を飲めるようになった時だとか。

 しかし人間に期待するものはあまりなかった。

 手にする物体には時空や思考を短縮できる便利な機器や無数の命を簡単に殺める武具を次から次へと発明し続けるのだが、代償を省みず結局は後退していることに気づかない。

 それを発展とは僕をはじめ隣接する宇宙の万物たちも思ってはいない。
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