第47話

文字数 303文字


 すれ違う人は前方に注意なき母を親切にも向こうから除けてくれた。

 僕はその時母に訪れる危機を予知していた。

 だから母に注意を促した。

 だけど僕の声は届かない。

 僕の動きも伝わらない。

 届けるのは繋がっている意思だけでそれを持って伝えたいのだが、

 母の注意は僕の伝えたい意思より夫への伝言に余りにも傾注しすぎていた。

 注意散漫な母に僕は「危ない」と何度も足を止めるよう伝達したつもりだが、

 できあがりつつあった伝言に母は釘付けになっていて階段の高さに足が追いつかなかった。

 母が駅の階段でつまづき転ぶのを、

 僕も彼女のお腹の中でごろんごろんと転がりさっき産婦人科で見てきた化石の声を隣に感じる恐怖を味わった。
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