第一項 守護精霊診断

文字数 2,018文字

 「次の方、どうぞ」
大きな病院の集団待合室。そこは中学3年生で満たされていました。西暦2078年の日本。みなさんは、どんな世界を想像されていますか?洋画のSFに出てくるような、車が空を飛ぶ世界?ロボットや宇宙人と戦争するような世界?もしかして、青くて可愛い猫型ロボットが完成した世界とか?
 残念ながら、この物語で描かれる2078年は、そのどれとも異なります。どちらかというと、みなさんが暮らす2010年代と変わりません。え?それはなぜかって?実は外国で大きな戦争があって、日本も少なからず影響を受けています。でも戦争それ自体より、戦争でばら撒かれた、”グラマトン粒子”が、一番の原因なんですけどね。
 どんなことがあったのか、それは追々ご説明します。でも今はまず、”みなさんが過ごす日本と、見た目の雰囲気は変わらない未来”で、この物語は進むんだって、ご理解いただければ幸いです。大きく違うのは、携帯電話とかの無線通信や、飛行機が空を飛べなくなった、ってことがあるくらいです。
 それでは病院に話を戻しますね。私たちは今、守護精霊(アルドナイ)診断の順番を待っています。”守護精霊”って、なんだかいかがわしく感じる読者もいらっしゃるかもですね?この世界では、AIがほとんどのコミュケーションと判断を実行しています。既に社会人の読者さんは、お仕事などでコミュニケーションがいかに難しいか、日々感じているのではないでしょうか。
 上司の指示が曖昧だったり、誰も責任を持って判断しなかったり、協力が得られなかったりで、ルーティン・ワーク以外がとっても大変なのではないでしょうか?2078年の世界、私たち人間はもちろん働いています。ただ、お仕事する際に判断したり、コミュニケーションをとるのは、ブレスレットに組み込んだ、アルドナイなのです。
 つまり人間のお仕事は、アルドナイの指示に従って、お仕事の資料を集めたり、関係者のもとに行くことなんです。会話やメール、電話をするときにアルドナイが自動で起動(立体映像)して、人間関係のトラブルなく交渉や調整を進めてくれるのです。
 これが民間のお仕事だけでなく、公務員や政治家にも適用されているので、基本的には不正とか不祥事は起きません。それに、みんなが敬遠しそうな大変なお仕事は、AIを組み込んだアンドロイドの担当になっています。だから、犯罪や自殺者の数とかは、みなさんの世界より大分少ないと思います。
 ご説明が長くなっちゃいました。ごめんなさい。アルドナイは”私たちの将来の仕事を助けてくれる”、ここだけ聞けば、いいことだらけですよね?でも、私たち中学3年生は、この診断が怖くて怖くて仕方がないのです。なぜなら、アルドナイ診断が即、将来の職業選択に繋がってしまうからです。
 「俺、やっぱり実家の薬局を継ぐことになりそう」「俺、食品系の仕事になりそう」「俺は教師らしい……でも、親戚とかに教育者いないからなぁ。本当に向いてるのかな?」
 先に診察を終えた男子たちが、結果を口にしながら待合室に戻ってきます。私たちの世界には受験勉強がないため、このアルドナイ診断とその後の3年間の生活で、将来の職業が決まってしまうのです。だから、望む結果、望まぬ結果で学生たちが、一喜一憂しています。
 「次の方、どうぞ」 
診察室の扉が開き、遂に私の番が訪れました。
「沙希……大丈夫?」
「う、うん。行ってくるね」
心配してくれる友達に作り笑顔を返し、私は診察室へと足を運びました。
 「え~、早苗沙希さんね。これから画面に表示される質問に、直感で答えていってね」
みなさんの世界でいうところの、性格診断テストでしょうか。次々に表示される質問に、私は答えていきました。およそ10分で50問。1問につき12秒です。考える余裕なんてありません。その後、お医者さんとの会話(問診?)を経て、最後は身体測定(採血あり)です。
 「それじゃあ、結果を確認しましょう」
40歳くらいのベテラン女医さんが、血液検査の結果や問診結果を登録し、最後は一緒に画面に表示されるアルドナイを確認します。
 「……」
アルドナイを解析して表示するのに、少しだけ時間がかるので、ちょっとだけ補足説明しますね。アルドナイ、つまり守護精霊の診断っていうと、みなさんはどんな結果を思い浮かべますか?前世占いとか守護精霊占いだと、すっごい有名人だったり、歴史上の武将だったりって結果が出ることがありますよね。でも、それって本当はレアケースです。今受けている守護精霊診断では、ご先祖様だったり、他人だけど波長の近い誰かであることがほとんどで、それが職業決定に関係しているのです。
 さてさて、私の診断結果が画面に表示されるようです。画面に守護精霊さんのお顔のイメージが浮かぶのです。どんな守護精霊さんがおいでませなのでしょうか?緊張の瞬間です。
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登場人物紹介

桜苗沙希(さなえさき)(16)

ちょっと天然な、お菓子系の美少女。

パステルカラーがよく似合う。

幼い時に両親が離婚し、心に深い傷を隠し持っている。

それゆえか感受性が強く、不思議な青年、蓮に惹かれてしまう。

蓮野久季(はすのひさき)(21?) 通称:蓮(レン)

その経歴や言動から、とにかく謎の多い青年。

「黒い剣士、銀色の悪魔、ワケあり伊達眼鏡、生きる女難の相」など、いろいろ呼ばれている。

物語の核である、「グラマトン、プラヴァシー、継承者、閉じた輪廻」に密接に関わる、左利きの男。

セト

蓮が利用するアルドナイ(AI)

蓮を「兄サン」と呼び、主に情報収集と相談役として活躍する。

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