第二項 夢だったはずですよね?
文字数 1,316文字
「はーい、みんな静かに……静かにしなさい!」
少し苛立ちながら、担任の美津井先生が声を張り上げます。それはそうでしょう。クラスのみんな、今朝のニュースでお喋りが止まりません。始業ベルはとっくに鳴っているのですが。それも仕方がないですかね。亡くなったのが自分たちのクラスのチューターで、さらに橘先生という、美津井先生との交際が噂されていた男性教諭と遺体で発見されたのですから。
「ほら!もういい加減にしなさい!」
美津井麗子(みついれいこ)(32)先生、細身でロングヘアーの栄える美人です。でも、プライドが高いのと、ちょっとキツメな印象のせいか、男性教諭があまり寄り付かないんですよね。今も苛々しながら右手の指を摩っています。料理で怪我でもしたのでしょうか、絆創膏を貼っています。その上を、しきりに摩っているのです。あんなに触ったら、治りが悪くなりそうですが……
あ、話が逸れてしまいました。本題はここからです!
「はい!午後の演習だけど」
そう、お昼明けの5限は数学の演習です。授業で習ったところの復習時間で、私達は問題集を解いていきます。そしてわからないところを、美津井先生(担任であり数学担当)かユキさんに、個別に教わりながら取り組むのです。
「飯島さんは来られません。ですから、代わりのチューターさんが来てくれます。お昼前には到着するそうだから、そのときに紹介します」
そんな先生の言葉が聞こえちているのかいないのか、生徒たちのおしゃべりは続きました。
「まだ授業の途中だけど、チューターさんが来たみたいね」
午前最後の授業、数学の時間も残り5分というところで、美津井先生が授業を切り上げました。扉の向こうに人影が見えています。
「失礼しまぁ~す」
驚いたことに、入ってきたのは男性でした。当然クラスがザワつきます。ええ、ザワつきましたとも。だって、若い男性が入って来るなんて、誰も想像していなかったのですから。この学校は共学ですが、男子と女子で校舎が別れているし、男性教諭も少数です。チューターも必ず女性が派遣されていました。そんなところに、若い男子大学生が現れたりしたら、それはもう……それまで身内以外の男性と接点がない女生徒達ですから、当然色めき立ちました。でも、私とアマノだけは別の意味で驚いていたのですが。
「蓮野久季です。よろしく」
今朝のワケあり伊達眼鏡さんです。172cmと標準的な身長で、少し痩せ型。髪が少し伸び気味の彼は、ちょっとイケメンかなという感じで、特別カッコイイという訳でもありませんでした。だけど、物腰の柔らかい口調と穏やかな雰囲気、服装から漂う清潔感から、第一印象は”爽やか、優しそう”と好印象でした。まあ、私服にヘッドフォンというのが、教員補佐としてはちょっと軽薄な気がしますが……
「あのヒト……あっ!」
こんなときに私は、遅ればせながら夢のことを思い出しました。思い出して、密かにパニックになっちゃいました。今朝起きたとき、足が少し汚れていたんです。そして夢で気絶する瞬間に、確かに見てしまったんです。瞼に残る残像、それは斬り殺された鬼から
「橘先生が……出てきたような……」
少し苛立ちながら、担任の美津井先生が声を張り上げます。それはそうでしょう。クラスのみんな、今朝のニュースでお喋りが止まりません。始業ベルはとっくに鳴っているのですが。それも仕方がないですかね。亡くなったのが自分たちのクラスのチューターで、さらに橘先生という、美津井先生との交際が噂されていた男性教諭と遺体で発見されたのですから。
「ほら!もういい加減にしなさい!」
美津井麗子(みついれいこ)(32)先生、細身でロングヘアーの栄える美人です。でも、プライドが高いのと、ちょっとキツメな印象のせいか、男性教諭があまり寄り付かないんですよね。今も苛々しながら右手の指を摩っています。料理で怪我でもしたのでしょうか、絆創膏を貼っています。その上を、しきりに摩っているのです。あんなに触ったら、治りが悪くなりそうですが……
あ、話が逸れてしまいました。本題はここからです!
「はい!午後の演習だけど」
そう、お昼明けの5限は数学の演習です。授業で習ったところの復習時間で、私達は問題集を解いていきます。そしてわからないところを、美津井先生(担任であり数学担当)かユキさんに、個別に教わりながら取り組むのです。
「飯島さんは来られません。ですから、代わりのチューターさんが来てくれます。お昼前には到着するそうだから、そのときに紹介します」
そんな先生の言葉が聞こえちているのかいないのか、生徒たちのおしゃべりは続きました。
「まだ授業の途中だけど、チューターさんが来たみたいね」
午前最後の授業、数学の時間も残り5分というところで、美津井先生が授業を切り上げました。扉の向こうに人影が見えています。
「失礼しまぁ~す」
驚いたことに、入ってきたのは男性でした。当然クラスがザワつきます。ええ、ザワつきましたとも。だって、若い男性が入って来るなんて、誰も想像していなかったのですから。この学校は共学ですが、男子と女子で校舎が別れているし、男性教諭も少数です。チューターも必ず女性が派遣されていました。そんなところに、若い男子大学生が現れたりしたら、それはもう……それまで身内以外の男性と接点がない女生徒達ですから、当然色めき立ちました。でも、私とアマノだけは別の意味で驚いていたのですが。
「蓮野久季です。よろしく」
今朝のワケあり伊達眼鏡さんです。172cmと標準的な身長で、少し痩せ型。髪が少し伸び気味の彼は、ちょっとイケメンかなという感じで、特別カッコイイという訳でもありませんでした。だけど、物腰の柔らかい口調と穏やかな雰囲気、服装から漂う清潔感から、第一印象は”爽やか、優しそう”と好印象でした。まあ、私服にヘッドフォンというのが、教員補佐としてはちょっと軽薄な気がしますが……
「あのヒト……あっ!」
こんなときに私は、遅ればせながら夢のことを思い出しました。思い出して、密かにパニックになっちゃいました。今朝起きたとき、足が少し汚れていたんです。そして夢で気絶する瞬間に、確かに見てしまったんです。瞼に残る残像、それは斬り殺された鬼から
「橘先生が……出てきたような……」